Phinlodaのいつか読んだ本

実際に読んでみた本の寸評・奇評(笑)

蒼路の旅人

旅人というタイトルだが守り人シリーズ。ドラマも始まりましたね。チャグム皇太子は15歳。サンガル王国からの手紙に誘われて、罠だとわかった上で出向いて捕虜になってしまう。

湖で泳ぐのと、海で泳ぐのはずいぶんちがいます。海に落ちたときは、泳ごうと足掻いて体力を失うより、浮かんでたたようほうがいい。
(p.93)

ぷかーと浮かんでいたら楽ですからね。この発想が今回は全編通じて伏線になっているような気がします。ミクロに見れば猛烈にジタバタしていますが、マクロ的には結局周囲の思惑にハメられてただ流されている感じなのです。とはいっても最後にやらかしてくれますけどね。

 

蒼路の旅人
新潮文庫
上橋 菜穂子 著
ISBN: 978-4101302799

 

雑記

今日は書店にも行ったのだが、何も買わなかった。衝動的に買いやすい性格なのだが、珍しいかもしれない。そういえばそろそろ年末も近付いているので年賀状のことを考えないといけないのだが、毎年「筆王」を使っているので、今年も干支データの入った「筆王」対応のムックを買うことになりそうだ。

東京奇譚集

村上春樹さんの短編集です。最初の話は「偶然の旅人」。何気なく出てくるルールがよく分からない。

かたちのあるものと、かたちのないものを、どちらかを選ばなくちゃならないとしたら、かたちのないものを選べ。
(p.34)

奇妙なルールですね。強引に理屈をつけるとしたら、形があるものはいつかは壊れるから、形のないものを選んでおいた方がいい、という感じでしょうか。

もう一つある意味同感なのが、

偶然の一致というのは、ひょっとして実はとてもありふれた現象なんじゃないだろうかって。
(p.47)

確率的にそれはある意味そうですね。たまたま買った宝くじの番号が13組の 342452番だったとする。もちろん外れています。大外しです。しかし、あなたが宝くじを買って1等を当てる確率と、あなたが買った宝くじが13組の342452番である確率は全く同じなのです。物凄い偶然ですよね。

次の作品は「ハナレイ・ベイ」。これはかなり好きな作品です。いきなり一人息子に死なれてちょっと壊れているサチさんがいいです。こういう性格だとそういう子供が育つだろうとイメージできそうなところが特にいいです。

「煙草で人は確実に死んでいくけど、マリファナじゃなかなか死なない。ただちょっとパアになるだけ。まああんたたちなら、今とそれほど変わりないと思うけど」
(pp.69-70)

あんたたちというのが、たまたま出会ったチャラい感じの大学生。完全にバカにしているのですが、確かにビリだとそれ以上順位は落とさずに済みます。それ以上じゃなくてそれ以下と言うべきですか。

サチはピアノを弾きます。しかしオリジナリティがないと嘆きます。

そこにあるものを、そこにあるとおりに弾くのは簡単だった。しかし自分自身の音楽を作り出すことができない。
(p.74)

ちなみに私は多少音楽をやりますが、演奏技術が未熟で才能もないから完コピするだけでも大変です。ていうかまず無理です。イイカゲンな演奏しかできません。でもオリジナルの曲は作れるし、演奏もできます。AI的には、そこにある通りに弾くというのが案外難しいような気がします。もちろん録音して再生するのは簡単ですが、deep learning のような手法で曲を作ろうとすると、何かズレるような気がするわけです。sin カーブを学習させて再現させても、sin カーブっぽい折れ線しかできないみたいな感じ。

3つ目の作品は「どこであれそれが見つかりそうな場所で」。これは世にも不思議な奇妙な話といったところで、何かわけの分からない違和感が残ります。舞台の大半は階段で進行するのですが、学校の怪談的な雰囲気の下で、階段での会談が進んでいきます。しかし登場人物の行動はリアルで、

飛びつくみたいに簡単に引き受けたら、裏があるんじゃないかと勘ぐられてしまう。
(p.109)

大人の小技といったところですね。私の経験ではこの技は8割の確率で失敗しています。これは失踪した人を探すというミッションを受けた探偵さんの頭の中の言葉なのですが。作品中には探偵という言葉は出てこないし、ボランティア、趣味という設定で、

私は個人的に、消えた人を捜すことに関心を持っているのです
(p.110)

だそうです。人探しおたくですね。どんな分野にもプロや変態はいるのです。この小説は、階段で出会う人と会談するといいましたが、最初はランナー、2人目は哲学的な老人、3人目は小学生の女の子、それぞれの会話が怪異と話しているみたいで面白いですね。この老人がスモーカーなのですが、喫煙する理由を聞いた探偵さんが、

「いわば健康のために喫煙を続けられているわけですね」
(p.125)

というのが面白いです。女の子は女の子で、

子供のいない男の人とは口をきいちゃいけないって、うちのお母さんが言ってた。
(p.130)

子供がいる男なら口をきいてもいいのかな、危ないような気もしますが、しかしこの女の子は知らない男を相手によく喋ります。

次の話は「日々移動する腎臓のかたちをした石」。何かこういう感じにタイトルが長いのは個人的には面倒いのでイヤなんですけど、

男が一生に出会う中で、本当に意味を持つ女は三人しかいない。
(p.141)

大島弓子さんのマンガに似たような話がありますね。本当の恋は3回訪れる、だっけ。

登場する女性がなかなか哲学的で面白いです。キリエという名前も面白いです。

この世のあらゆるものは意思を持ってるの
(p.166)

オブジェクト指向ですね。Java なら得意分野です。

最後の話は品川猿。何度か読み直したのですが、なぜ品川なのか未だに理解できません。世田谷じゃ駄目なんですかね。個人的には、こういうのは渋谷に潜んでいそうな気がしますね、特に地下の小川あたり。私は自分の名前は忘れたことがまだありませんが、他人の名前はすぐに忘れてしまうので、こういう話には共感してしまいます。

名前に関連して思い出せる出来事って、あなたには何かないかしら?
(p.201)

この質問、なかなか鋭いというか、キツいですね。あなたなら何かありますか? 私はちょっと思いつかないです。

嫉妬の感情を経験したことのない人に、それを説明するのはとてもむずかしいんです。
(p.209)

これも確かにそうですね。さて、この話はタイトルの「品川猿」から想像できるように猿が出てきます。

「いないあいだに猿に取られないように」
(p.211)

これは、主人公の女性に名札を預ける、松中優子という女性のセリフです。松中優子で思い出しましたが、松田優作という伝説のスター。あの名前が、なかなか覚えられませんでした。覚えてもすぐに忘れてしまうのです。思い出すのに考えまくって1日かかるのです。余談はさておき、ここで猿が出てくるのも何か違和感があるんですよね。何故松中さんは猿に名札を取られることを知っていたのか。まあそれはおいといて、この話。

ほら、よく言うじゃない、人生は三歩進んで二歩下がるって。
(p.221)

その後「休まないで歩け」ですよね。残業は悪、残業すると過労死すると信じられている時代に、そんなこと言う人まだいるんですか。

さて、この話の猿は、実は喋ります。

「はい、しゃべれます」と猿は表情をほとんど変えることなく言った。
(p.228)

モニタリングじゃないの。小説だし、ま、いいのか。猿にアドバイスをもらって〆めの言葉が、

私の名前が戻ってくれば、それでいいんです。私はそこにあるものごとと一緒に、これからの人生を生きてきます。
(p.242)

化物語のひたぎさんのようなセリフですね。

最後に、ありがたいアドバイスを紹介しておきましょう。

「女の子とうまくやる方法は三つしかない。ひとつ、相手の話を黙って聞いてやること。ふたつ、着ている洋服をほめること。三つ、できるだけおいしいものを食べさせること。簡単でしょ。それだけやって駄目なら、とりあえずあきらめた方がいい」
(p.92)

 

東京奇譚集
村上 春樹 著
新潮文庫
ISBN: 978-4101001562

 

日本はこうして世界から信頼される国となった (2)

昨日紹介した本について、他の章も紹介しておこう。各章には逸話があって、それに沿って日本人論が展開される構成になっている。

第1章は、1985年のイラン・イラク戦争でトルコが日本人のための救援機を出した話。昔、モーニングにこの話のマンガが出ていたことがある。 第2章の日露戦争は武士道の話。

第3章のダットサンが企業あるあるで面白い。日本の自動車産業が大発展した理由として、

戦後、連合国側には、日本には絶対に近代工業を再開させないという意志があり、航空機の生産と研究は全面的に禁止され、自動車の生産すら制限された。
(p.67)

この状態から、

飛行機製造が全廃されたことにより飛行機で腕を磨いたエンジニアが多く入ってきている。
(p.68)

これはトヨタ自動車豊田喜一郎氏の言葉で、飛行機業界からスゴ腕エンジニアが自動車業界に転職してきたことを言っている。この時点で自動車後進国だった日本が、2017年の今現在こんな感じになって、アメリカの自動車産業が衰退したのだから、世の中分からない。

第4章は赤穂浪士

第5章はペリー来航だ。ペリーは日本に何をしに来たのかは、学校で習ったかな。もちろん私は習ったし、その時かなり仰天したので今でも忘れていないのだか、それについては今回はパスする。とにかくペリーは軍艦で日本にやって来て、こう言った。

「大統領からの国書を受け取らないのなら武力攻撃をする。負けた後、和睦を要請する時は、この2旒の白旗を掲げよ」
(p.112)

この種のやり方は、第二次世界大戦が終わった後まで続くことになるが、とにかくこれで日本は大騒ぎになって、結論として日米通商条約を締結することになった。その後、アメリカは日本を侵略して植民地にする予定だったはずである。ところが日本には神様がいたらしくて、アメリカでは南北戦争が始まってしまう。

強引な開国を迫ったアメリカだったが、この南北戦争によって、遠い日本の侵略どころではなくなっていた。
(p.115)

その間にイギリスが戦争しかけてくるし、フランスも一枚噛んでくるし、ぐちゃぐちゃの中よく侵略されなかったな、というのがこの章の話である。

 

日本はこうして世界から信頼される国となった: わが子へ伝えたい11の歴史
佐藤 芳直 著
小学館文庫プレジデントセレクト
ISBN: 978-4094700190

日本はこうして世界から信頼される国となった

今日は大阪府がサンフランシスコとの姉妹都市を解消するというニュースがあったようだが、サンフランシスコといえば日本人差別で有名だったことを、学校の社会科では教えているのだろうか。

「日本はこうして世界から信頼される国となった」という本の第6章は「一九一九年 人種的差別撤廃提案」というタイトル。日本にも差別というものはあったし、今もあるのかもしれないが、それと人種差別というのはまた違った難しさがある。そして、人種差別は今もある。サンフランシスコを語るときに日本人差別の発想をスルーしてはいけない、そのことを頭に徹底的に入れておくべきだ。

一八九三年、サンフランシスコ市教育委員会は、市内の公立学校に通っている一〇〇名ほどの日本人児童に対して、支那人学校への隔離条例を決議した。
(p.130)
一九〇〇年には、同じサンフランシスコで大規模な日本人集会が開かれた。
(p.130)
特に太平洋の玄関である港町サンフランシスコ市民の反日感情は過激だった。
(p.131)

オレンジプランの話も出てきますね。

「日本を『完全な窮乏と疲弊』に追い込む。アメリカは日本を『打ちのめす』まで戦いを止めず、日本に「徹底的ダメージ」を与えて屈服させる。そして日本に『アメリカの意志』を押し付け『アメリカの目的』に服従させる」
(p.135)

日本は歴史的に、欧米社会から差別され続けてきたのである。このような事実は日本の歴史教科書にどのように表現されているのだろうか。そして、この章は、このような時代に大日本帝国国際連盟で次の提案をした話が紹介されている。

国際連盟の盟約は、人種平等の原則が固守されるべきである」
(p.137)

穿った見方をすれば、単に日本が人種差別されているから差別ヤメロ、というだけの話にされてしまいそうだが、とにかくこの提案は投票の結果、賛成多数で可決されたのだ。ところが、今の国連も大国のやりたい放題というシステムは変わらないようだが、アメリカのウィルソン大統領がこれを一方的に否決する。

「このような重大な案件は、全会一致でなければ、認めるわけにはいかない」
(p.138)

国際的に支持された主張が、アメリカという大国が否定したのである。つまり、アメリカは人種は平等ではないというルールに賛同したわけだ。今「差別反対」とか言ってトランプ大統領を叩いている国は、たった百年前にはおおっぴらにそういう考え方をしていたのである。

アメリカの差別というのがどのようなものか、もし知らない人がいたら、次のページも見ておいて欲しい。

日本の教科書では語られない 人種差別のおそろしい真実

 

日本はこうして世界から信頼される国となった: わが子へ伝えたい11の歴史
佐藤 芳直 著
小学館文庫プレジデントセレクト
ISBN: 978-4094700190

 

雑記

広辞苑の第七版が来年発売になります。現在予約受付中。

買おうと思っているのですが、広辞苑ってこの大きな本を使っている人、今はどれ位いるのでしょうか。電子辞書を使っている人がかなり多そうな気もするのですが。

 

ヴィジュアルガイド 物理数学 ~1変数の微積分と常微分方程式~

今日は例の本の書評を書こうかと思っていたけど結局書けなかったので先延ばしにさせてください。ということで全然関係ないけど最近読んだのがこの本。

グラフや図、コラム、欄外の注釈など、とても分かりやすい。問題を解いて理解を確かめながら読み進めることができる。大学生向けの本だと思うけど、数学の得意な高校生でも読めると思う。関数から始まって、微分テイラー展開積分微分方程式まで。

応用例の紹介も面白い。本の帯には「弱肉強食も微分方程式で」と書いてあるが、これは p.167で紹介されているロトカ・ヴォルテラの方程式のこと。他にもランチェスターの第2法則(p.139)とか出てくる。

 

ヴィジュアルガイド 物理数学 ~1変数の微積分と常微分方程式~
前野昌弘 著
東京図書
ISBN: 978-4489022401