Phinlodaのいつか読んだ本

実際に読んでみた本の寸評・奇評(笑)

この世にたやすい仕事はない

今日は少し体調もよろしくなかったので、作業を中止して昨日チラっと紹介した本を読んでいたので、少し書いてみます。「この世にたやすい仕事はない」です。主人公の「私」は失業保険も切れて仕事を探すのですが、

家からできるだけ近いところで、一日スキンケア用品のコラーゲンの抽出を見守るような仕事はありますかね?
(p.14)

そんなウマい話はないだろ、と言ってしまうと話が始まらないのですが、それで紹介された仕事が特定の人を監視するというもの。隠しカメラで山本山江という作家の部屋を隠しカメラで一日中監視して、怪しい動きがあったら報告するのが仕事です。

ずっと監視していると、

だんだん、自分が山本山江と生活をともにしているような気分になってきた。
(p.46)

というのが何となくリアルのですが、本当にそういう仕事を経験したことがあるのでしょうかね。山本山江が何か買ったら自分も欲しくなるとか、何か食べたら自分も食べたくなるとか、そのような思想共有が出来てくるというのです。

このミッションはコンプリートして、契約を更新するかと言われたところで、

はたしてこの仕事を続けていいものだろうか。
(p.64)

そう言われても、って感じですけど何となく分かるような気がします。

契約更新しなかったので次の仕事ということになって、第二話は、「バスのアナウンスのしごと」、というのがアナウンスをするわけではなく、都市バスとかに乗るとアナウンスの途中に宣伝が入りますよね、あの文言を考えて音声データを制作するという仕事です。ところがこの仕事に一つ条件が付いています。先輩社員を監視しろというのです。

「彼女自身の仕事中の態度について、気が付いたことがあれば報告して欲しい」
(p.78)

また監視の仕事か、という感じなのですが、何をどう監視するかは指示がありません。ターゲットは江里口さん。今回の仕事の指示をしてくれる先輩です。ところが先輩はテキパキと仕事を進めていきます。デキる社員です。では一体どこが不審なのか。

「ないと思っていたらある、ってことが続かないか?」
(p.105)

広告を出すことになったので、どんな店か確認しに行ったら店がない。よく調べたらこれから開店するところだった、のようなケースがあったわけです。それで、そのような音声アナウンスを一度だけ消してみたら、

その後、その店のあったところを見に行ったら、閉店していたんだ。
(p.106)

アナウンスをしたら店が出来る、アナウンスを止めたら閉店になる、というのは実に怪しい話ではないか、というのです。そんなバカな、と思って試しに最近アナウンスを始めた店を選んで一日アナウンスをやめてみたら、とんでもないことに(笑)。

ということで、あと3つ話が入っているので続きます。

 

この世にたやすい仕事はない
津村 記久子 著
新潮文庫
ISBN: 978-4101201429