Phinlodaのいつか読んだ本

実際に読んでみた本の寸評・奇評(笑)

りぽぐら!

表紙に書いてありますが、リポグラム lipogram というのは、特定の語または特定の文字を使わないで書くという遊びです。遊びと言い切っていいのかな。いいでしょう。こんなのハンマーの折れたタイプライターで小説を書きたい人でもなければ何の現実性もありません。しかも、ハッキリ言って読んでいて面白くない。書くのは面白いかもしれないが、同じ話を何度も読まされて、エンドレスエイトじゃあるまいし。まあでも各ショートストーリーはそれなりにスパイシーなので紹介してみます。

1作目は「妹は人殺し」。滅茶苦茶非現実的な話で、兄に気付かれずに妹が自宅に来た友達を殺してベッドの下に隠すなんてあり得ない。でもそんなのどうでもいいわけで、比較のために、最初の1文を引用しておきます。

妹が人を殺したらしい。
(p.8)

これが1パターン目は、こうなります。

僕の妹は殺人犯。
(p.24)

何で表現が変わるかというと、「あ・お・き・け・ち・な・に・ぬ・れ・ろ」は使用禁止なのです。ということは「殺した」は「ころした」で「ろ」が入ってしまうので使えません。でも「らしい」は残してもいいんじゃないのかな。で、2パターン目は「こ・し・す・せ・ひ・ま・ゆ・ら・る・わ」が禁止です。

妹が人を殺めた。
(p.40)

案外あっさりとクリアしている。「殺した」は「こ」がダメなので「あやめた」になりましたか。「らしい」も「し」がダメ。そして3パターン目は

実妹が人間を殺したのだ。
(p.56)

「じつまい」なんて言葉聞いたことないですけど。仮妹ってのもあるのかな。4パターン目にもなると、

我が愚昧、人を殺しけり。
(p.72)

何で古文? というのは、禁止語に「た」が入っているのです。「た」を禁止にすると「~だ」という表現がアウトなのでもうどうしようもないのを、古文だと何とかなるなり。これ、2作目の「ギャンブル『札束崩し』」では、関西弁にすることで回避しています。関西弁だと「だ」は「や」に置き換えてokなんやで。3作目の「倫理社会」は古文・関西弁、両方出てきます。

この「倫理社会」のストーリー、ちょっと気になったので紹介しますと、世界は完全監視社会で、全ての行動がポイントとして評価されるという想定です。だから悪いことはできない。してもいいけど、したら評価が下がっていろいろ不便になるのです。ところが、全世界が監視されているはずなのに、一か所だけ死角があった。そこでは何をしても評価に影響はない。という場所で、

倫理的な配慮を一切することなく、ぼくは彼を、気がついたら殺していた。
(p.188)

というのですが、ここがどうも納得いかん。評価されないからといって、そう簡単に殺せるものなのでしょうか。人間は洗脳されます。残念ながら。普段から倫理的な行動を強制されていたら、何をしてもいいと言われても普段通り動いてしまうような気もするわけです。

ちなみに、禁止ワード「えすたちにぬふほよわ + さそとねめる」になると、

拙者は倫理を擲(なげう)って――彼を心から殺して。平穏をなくせしものなり。
(p.200)

「くけせひまやゆりれん + さそとねめる」だと、

私は。彼女を。殺した。
公序値を――公序を無視して。
でも、無私ではない。
(p.213)

なにが。

そして、「いおかつてなのみむろ + さそとねめる」で、

ゆえに儂は不審者を死者にした。
やましくはあらへんや――ここに公序はあらへんように。
(p.226)

「あらへんや」は変やな。「あらへんのや」…はあかんのか。ここは「あらへん」だけでええんちゃうか。


りぽぐら!
講談社ノベルス
西尾 維新 著
ISBN: 978-4061828971