Phinlodaのいつか読んだ本

実際に読んでみた本の寸評・奇評(笑)

からくり民主主義

何回か「からくり民主主義」を読んでいると雑記に書いたのですが、読み終わっているので紹介しましょう。この本を読むきっかけは、バカの壁。その中でこの本のネタが紹介されていたのです。調べてみると第九章の「ぶら下がり天国」が青木ヶ原の樹海の話。

自殺にもさまざまなスタイルがある。決行場所で大まかに分けると、約五割が在宅で首吊り、薬物。四割が近場の高層ビルや線路などで投身。残りの一割弱が海、山へ出かける。
(p.224)

日本は首吊りが多いんですね。アメリカだと銃が多いのではないかと想像しますが、首を吊るというのはどこから仕入れたノウハウなんでしょうか。謎です。個人的には、青木ヶ原の自殺というと、樹海に迷い込んで餓死するようなイメージでしたが、

ぶら下がりの位置はだいたい決まっているんです。道からほんの一〇メートルくらい。日光が差し込んで明るく平らでいい場所ですよ。ほんと、入ってすぐです。
(p.228)

実際は、入ってすぐの所で首を吊るそうです。確かにその方が確実に死ねそうですね。砂漠じゃなくて樹海ですから、食べるものとか水とかありそうだし。

こんな感じでいろいろハッとするような話が出てきて、目から鱗が落ちるのかといえば、そうではなくむしろ、ああそれ当たり前だよね、みたいな感覚で自分の中でオチが付いてしまう、そんな本です。

そもそも、報道と現実が違うなんて、実際に現場で報道された経験があったら誰だって分かると思うのです。報道されない真実とか、偏向した報道とか。有明海のノリの話はちょこっと紹介していますが、報道では開門派と閉門派がドンパチ闘っていたような印象がありましたよね、実は、

闘いは「ごく一部」の中の「またごく一部」だった。テレビ映像にインパクトがあったのはその〝慣れ〟のため。
(p.88)

演出だったってことですよね。プロ市民というか、選挙前になったら政治家が演説をするところに出て行ってヤジをするのが仕事の人とか、いますよね。新宿とかで、朝早くそれなりの場所に行けば、どこから集められたのか知らないけど、ミーティングしてたりしますよね。

で、有明海の話では、ノリが不作になったという報道が面白いです。

例えば佐賀県でも、福岡寄りは六割も減ったが諫早湾寄りの地域では一割減だった。関係者によると、佐賀中西部などは堤防閉め切り後、以前よりノリの出来がよいらしいのだ。
(p.88)

門が出来てノリがよく採れるようになったなんて、そんなこと報道したらシナリオぶち怖しになってしまう。マスコミはそこまでノリノリじゃないから、都合の悪いことは無視します。これが情報操作の基本です。今だと勝手に動画を YouTube にアゲてしまうような人もいるから、状況が変わっていると信じたいです。ただ、昔よりもさらに混乱しているような気がしないでもない。マスコミがやってた偏向報道を誰でも出来るようになった(笑)。

しかしマスコミだって、味方に付けたら鬼に金棒というか、ありがたいという話も出てきます。

非常に強力な機関誌を私達は持っとります。朝日新聞という機関誌でありまして(笑)、(昭和)四十八年の十月以降ですネ、朝日新聞、一貫してですネ、私達のいわゆる宣伝紙に成り下がりじゃなくて成り上がっています(笑)。
(p.106)

朝日新聞のおかげで、ムツゴロウを守れという全国運動が盛り上がったのだそうです。農民はどうでもいいからムツゴロウを守れ。ま、日本ってそういう国ですよね。被害者はいつも救われない。ところで肝心のムツゴロウはどうなったのかな。あれって普通に魚だから、捕って食うんですよね。増えたら珍味になる運命。私は食べたことがないです、多分。

第五章の「ガリバーの王国」はオウムのサティアンの話です。 当時の現地の住民にインタビューしてみると、

――いや、当時のことですが……。
「当時も別になかったです」
――しかし、オウムがいなくなって、村も変わったでしょう。
「いやあ、別にあまり変わらんです」
(p.118)

報道されていたのは、新興宗教が大勢やってきて、静かな村に住み着いて、大いに迷惑している…みたいな話だったと思ったのですが、全然違うんですね。この本によると共産党とか絡んでしまってどうしても縺れた謎が解けない。

この本には大きなネタがどんどん出てきますが、例えば、沖縄の基地問題。これは今もやってますよね。沖縄で活動しているのはプロ市民【謎】という噂は有名なのですが、

町民に訊くと、「あの中に町の人はひとりもいませんよ」とのこと。
(p.136)

マジすか。しかし報道では住民がやったことになっていますよね。マスコミ、すごいです。もっとも、この本が本当なのかと突っ込まれたら、まあ確かに私はどちらも検証してないです。矛盾した報道があったら両方疑うのが基本なのですが。

ただ、ロジックとしてはこの本の方が合理的、理屈に合っているように見えるのです。これなんてとても怖い話なのですが、

聞き取り調査をしても、本で読んだ話を自分の体験のように語る
(p.147)

ありがちなことです。基本的に、人間はウソをつきます。ウソとまでは行かなくても、誇張したがります。意識的にやってなくても、無意識に脳がそう錯覚します。そうなると何が真実なのか本人でも分からなくなります。

そもそもヘリポート基地が普天間からここに移設になったのは、地元の人がうるさい、うるさいと訴えたからってことになってるでしょ。もともと地元の人はそんなこと言ってないですよ。皆、慣れてますからね。
(p.151)

しかも、普天間の町の歴史なんですが、

しかし考えてみれば、市街地ができたのは基地が建設された後である。
(p.152)

基地が出来たので、その周囲に街が発展したというのです。だったらアブナイから基地は出て行けというのは本末転倒というか、何か話がおかしくありませんかね。

紹介されている問題を比較してみると、共通点として、〇〇問題というのは結局お金が重要だ、というパターンが見えてきます。補助金が出るから人が動く、この構図です。基地問題もそうだし、典型的なのが、原発問題です。

原発ができたことで、町には巨額な交付金が入った。
(p.188)

原発反対で町長がリコールされて辞任します。工事中断派の町長が選ばれて、工事は中断しますが、なぜかそこで反対運動が消滅し、町長も結局工事を再開します。補償金が増額されたのです。中断派の町長を支持した町民はどうなのかというと、補償金が増えたので満足しているわけです。ま、そのための補償金ですから、別におかしな話というわけでもありません。逆に、原発を誘致しないとお金がもらえないから困るんじゃないの、という流れまであるのです。

ところで、原発というとガンが話題になるというシナリオもあるわけですが、

原発ができて、ガンが増えた」と公言している、大飯原発近くの永谷医院であらためて集計してもらったが、一九九二年から一九九六年の間のガン死亡率は、十五パーセント、十九パーセント、十一パーセント、二二パーセント、十九パーセントとなっており、これは全国平均(二八パーセント)以下だった。
(p.177)

まあ増えたことは増えたんですよね。全国平均以下というのは余計なことだから言わないだけで。口は災いの元ということで。

からくり民主主義
高橋 秀実 著
草思社
ISBN: 978-4794211361