以前タイトルだけ紹介していた「戦時の音楽」。短編集です。
戦争の話や音楽の話が出てくるのですが、それだけではありません。独特の雰囲気があります。どちらかというと、戦争ではないところが気になる話が多いのですが、例えば「十一月のストーリー」はテレビ番組のプロデューサーの話。
それが聞きたかったんですよ。じゃあ、ちゃんとした文章にして言ってもらえますか。
(p.34)
いろいろ誘導尋問しておいて、最後にそうやって本人にまとめさせるのです。それでインタビュアーが想定した通りのセリフをゲストに言わせることができる、という仕組みなのですが、確かにこれはアナウンサーの基本技能ですね。
「リトルフォーク奇跡の数年間」には、牧師さんが出てきます。
「じゃあ、具体的にはどうやって神は道を示してくださる?」
「耳を傾ければ、神は語りかけてくださいます」
(p.69)
何の解決にもなっていませんが、クリスチャンならこれで納得しないといけないです。それが信仰というものなのです。
「別のたぐいの毒(第一の言い伝え)」は、非常に短い短編。2ページ半しかない。とある家に兵士がやってきます。酒を飲んで調子に乗る兵士。ところが驚きの結末が待っています。
それからの一生、私の祖母は、自分はインクの瓶で兵士を殺したことがあるのだと語った。
(p.84)
一体何がどうしたのか想像できないと思いますが、もちろんインクの瓶で兵士を殺すわけですが、これはどう考えても兵士が悪いのだけど、ひょっとして実話なんじゃないかと思えてきます。
「赤を背景とした恋人たち」は、バッハが現代に生まれ変わる話。君の名は? バッハ。
買ってあげたショパンの楽譜を彼が弾くと、もっとはきはきとしてロマン派色が弱まる感じで、本来とは違った響きになる。
(p.134)
バッハの引くショパンとか、ショパンの弾くモーツァルトとか、実際に聴いてみたいですね。
「爆破犯について私たちの知るすべて」は異色の構成。数行の節に区切られた、メモ書きのような文章が連なっています。途中、本棚の本を紹介するところがあって、
ランボー、ドストエフスキー、アップダイク、コンラッド、ナボコフ、ムラカミ、ディケンズ、プルースト、マン。
(p.154)
ムラカミってあのムラカミですよね。爆破犯が興味を持ちそうな作品ってありましたっけ。
「惜しまれつつ世を去った人々の博物館」は、ガス漏れ事故で住民たちが死んでしまい、その遺品を相続することになったメラニーが、持ち物を一つずつ調べていく話。持ち物の中に携帯電話があります。バッテリーは切れていて、充電器がなかなか見つからないのですが、発見して充電すると、
携帯電話のサーバーから十五件の伝言が届いていた。
(p.295)
これはリアルな話ですね。死んだ後に送られてくるメールって、普通、誰がどう読むとか全然想定していないです。少なくとも私はしていません。あまり想像したくないです。pcも同じような問題がありそうですが、こちらはパスワードが分からないとログインできないはず。まあ誰か調べて中を確認するのかな、程度までは想定しています。普通にログインしたらキー配列がヘンなので相当苦労するでしょう。メールをどうしろとか、遺言には書いておくべきなのでしょうね。
戦時の音楽
新潮クレスト・ブックス
Rebecca Makkai 原著
レベッカ マカーイ 著
藤井 光 翻訳
ISBN: 978-4105901486