Phinlodaのいつか読んだ本

実際に読んでみた本の寸評・奇評(笑)

七人の用心棒-はぐれ長屋の用心棒(39)

七人の侍、という伝説の映画がありますね。今日は「はぐれ長屋」シリーズから「七人の用心棒」。映画を意識したタイトルなのかどうかは分かりませんが。「七人の用心棒」でググったら最初の方は「七人の侍」しか出てこないので慌てました。七人を紹介しておきますと、

源九郎、菅井、安田、研師の茂次、岡っ引きだった孫六、鳶の平太、砂絵描きの三太郎
(p.53)

サイボーグ009みたいな感じです。

今回のストーリー。女と子供が斬られそうになっているところに、源九郎と安田が出くわして、成り行き上、助けてやります。 ところが、何故襲われているのか釈然としません。女の名前は、おはま。おはまの言うには、

知り合いの橋本弥之助という武士が、おはまと長太郎の住む借家に来て、「ここを、襲おうとしている者たちがいる。すぐに、逃げねば、ふたりとも殺される」と白瀬、おはまは長太郎を連れて、緑町の家を出たという。
(p.22)

てなわけで逃げたのですが、追いつかれて斬られそうになった。そこに長屋の二人が通りがかったわけです。白瀬というのは護衛の武士、長太郎が子供の名前です。

行き場もないので長屋に連れてきて匿っていると、いつものパターンで金を持っていそうな武士登場。名前は豊島と里中。二人は味方で、百両出しておはまと長太郎を長屋で匿うよう依頼しますが、この二人にも襲った犯人が誰なのか分かっていません。しかも長太郎は実は殿の隠し子。お家騒動の匂いがぷんぷんします。

敵さんもなかなかの腕ですが、長屋を強襲しても七人の用心棒がいるので攻め込めない。追い返されてしまいます。ここで源九郎は、敵さんは別の手で来るのではないかと読む。

「わしらを、ひとりひとり襲うのだ。……長屋を出たときを狙ってな」
(p.92)

タスクを抱えたときは全部やろうとせずに、1つずつクリアしていくのがセオリーです。長屋の連中も、いつもやってる手ですね。今回も罠を仕掛けます。まず、源九郎が茂次と二人で出歩いて、油断していると敵に誤解させる。人通りの少ないところに誘い込んで、待ち伏せてぶっ叩く。相手は当然逃げる。その逃げた相手を尾行して、アジトがどこかを探る。

三太郎と孫六が尾行するシーンで神田仲町が出てきます。秋葉原の西あたりですかね。

通り沿いの店の多くは、表戸をしめていたが、飲み屋、料理屋、そば屋などからは灯が洩れ、男の談笑の声や嬌声などが聞こえてきた。
(p.107)

今だと秋葉原は外国人がわんさかいて何が何だか分からない町になっていますが。後はいつも通りなのでバッサリカットして、今回のラスボスは坂井。源九郎が坂井のいる借家にたどり着くと、坂井は酒を飲んでいます。

顔が酒気を帯びて赭黒く染まり、双眸が底びかりしていた。
(p.263)

このシリーズ、酒を飲んでから戦うシーンが結構多いのですが、酔った状態でまともに刀が振れるのでしょうかね。体が覚えているから問題ないのかも。


七人の用心棒-はぐれ長屋の用心棒(39)
鳥羽 亮 著
双葉文庫
ISBN: 978-4575668223

長屋あやうし―はぐれ長屋の用心棒

今日も、はぐれ長屋シリーズ、今回は「長屋あやうし」。何が危ういのかというと、伝兵衛長屋が地上げというか、乗っ取られそうになります。

手口は割と定番で、今でもありそうな気がしますが、まずガラの悪いのが越してきて近所にいろいろ嫌がらせをする。怖くなった人はそこから出ていくわけです。部屋が空いたら仲間を連れ込んで、どんどん雰囲気が悪くなる、とかいう。実は裏にはこの長屋を乗っ取ろうとする黒幕がいて、そいつが悪い奴等を金で雇っているわけです。

ガラの悪い奴の名前は滝蔵。ただし、この長屋には源九郎と菅井が住んでいます。こいつらを追い出すのは並大抵のことではない。悪いレベルでは負けていない。しかし相手もさるもの、大勢で一人ずつボコって長屋から出て行けと脅します。そこで源九郎は考えた。

「わしが、長屋を出違っているとの噂を流してくれ」
(p.114)

引っ越し先を探すふりをして敵を探ろうというのですね。そううまく行くモノなのか。とかいってるうちに、何と大家の伝兵衛にかわって滝蔵が長屋の大家になるという話が出てきた。伝兵衛に確かめに行くと、

三崎屋さんに、わけは言えないが、それしか手はないので何とか頼むと頭を下げられましてね
(p.140)

この長屋の大家さんは伝兵衛ですが、さらに上にボスがいるわけです。大大家、ていうかフランチャイズです。しかも長屋を出たいという噂なのに出て行かない源九郎に敵さんもしびれを切らしたのか強敵出現。その名も平沼玄三郎。前にも書いたような気がするが、玄という字が付くと悪そう。

相手のチンピラを騙して拉致して刃物で脅して情報をgetした結果、どうも三崎屋が息子を人質を取られて悪者の言いなりになっているようだ、ということを突き止めた源九郎が三崎屋の主に直に話を聞きにいきます。息子が何で人質に取られているかというと、博奕に手を出して借金が返せなくなったらしい。そこまで分かったら、人質を暴力的に奪還すれば解決だ。滝蔵は大家という立場を利用して、値上げした家賃を払えと迫ってくるのですが、用心棒まで連れてきたのに源九郎が刀を振り回して用心棒の右腕を斬りつけて追い返した。どっちがヤクザか分からない。

とかいってるうちに黒幕の伊勢蔵のアジトが分かったので強襲してちゃんちゃん、という筋書きです。強襲というのもやり方が汚いというか、まず公権力に話を持ち込む。相手は栄造。常連の親分さんですね。誘拐監禁事件があるけどどうよ、と誘った後で、

賭場のある場所も、一味の隠れ家も分かってるんだぜ
(p.253)

そこまでデカい話なのか、町方的にはお手柄のチャンスがネギを背負ってやってきたようなものだから、絶対に捕まえに行くわけですね。長屋側としては手柄なんかどうでもいいから、全部町方の手柄にして顔を立ててやるのです。その代わり、ムカつく奴等は斬らせてもらうということで。町方としても、悪者が雇っている用心棒なんか相手にしたくないから、むしろ斬ってくれ。Win-Win のシナリオがこうやって出来上がります。

ラスボスの平沼との対決は、いつも通りで何かのんびりしている。源九郎が、立ち会う前に訊きたいことがあるという。

「何だ」
「わしは、鏡新明智流を遣うが、おぬしの流は」
「おろは馬庭念流だ」
「すると、上州の出か」
(p.281)

さっさと斬ればいいのにと思うが、プロトコルというものがあるようです。めんどくさい。


長屋あやうし―はぐれ長屋の用心棒
鳥羽 亮 著
双葉文庫
ISBN: 978-4575663419

きまぐれ藤四郎ーはぐれ長屋の用心棒(20)

順番が滅茶苦茶ですが、どんどん行きます。今日の長屋シリーズ【謎】は、「気まぐれ藤四郎」。

長屋の住人の吾作が、下働きしている富沢屋で押し込みにあって殺されてしまいます。そこで娘の「おしの」が用心棒達に敵討ちを依頼。小銭をかきあつめて持ってくるシーンは泣くところ。しかし後から富沢屋の主人も仕事を依頼したので十分な軍資金はgetした。百両。

この金を分配する時、島田という新入りが首を突っ込んできます。ハブるわけにもいかないので、とりあえず仲間に入れて仕事をさせると、なかなか結構やります。砂絵描きの三太郎とコンビで行動するのですが、三太郎いわく、

「旦那は、町方同心のようですぜ」
(p.59)

武士だけあって、そこはかとなく威厳があるようですね。この島田が調子にのりやがって(笑)、

「実はな、こんな身装をしているが、ここにおいでの方は、隠密に事件の探索にあたられているのだ」
三太郎が声をひそめて言うと、
「お女中、それがしは火盗改の者だ。髭を伸ばしているのも、それと気付かれぬためなのだ」
(p.78)

デタラメもほどほどにしろ。ていうか調子に乗り過ぎて、待ち伏せにあいます。たまたまそれを見ていたおしのが長屋に知らせて、慌てて源九郎と菅井が駆けつけます。島田は斬られてしまいますが、幸い深手ではない。

犯人は夜鴉党という一味らしい。逆襲の手がかりとするため、メンバーの勇造を捕えていろいろ吐かせます。しかし勇造は長屋に監禁されているところを仲間に殺されてしまいます。口封じですね。夜鴉党、怖いです。

何かいつものパターンを書くのに飽きたので、一つ、江戸の風景を紹介します。

永次は、富ヶ丘八幡宮から半町ほど手前で右手にまがった。そこに、路地があった。この辺りは永代寺門前町で、路地沿いには料理屋、そば屋、小料理店、縄暖簾を出した飲み屋などが軒を連ねていた。
(p.229)

この永次を尾行しているのは、孫六と茂次。

「とっつァん、どうする」
茂次が訊いた。
「まず、めしだ。それに、酒。喉が渇いてどうにもならねえ」
(p.230)

ソバと酒というのがこのシリーズでは多発していますが、今の東京では、そういうシーンはあまり見たことがありません。そのような場所に行けばあるのかもしれませんが、私が蕎麦屋で最後に見たのは数年どころか十年前かもしれません。昼間っから酒飲んで蕎麦を食うなんて、なかなか乙なものです。一回やってみたい。明日やってみるか(笑)。


きまぐれ藤四郎ーはぐれ長屋の用心棒(20)
鳥羽 亮 著
双葉文庫
ISBN: 978-4575664744

美剣士騒動-はぐれ長屋の用心棒(30)

今日の長屋シリーズは「美剣士騒動」、これは30作目ですね。美剣士というと魔法少女みたいなのをイメージするかもしれませんが、もちろん男です。

源九郎と菅井が浜乃屋で飲んでいると、斬られた武士が逃げ込んで来ます。名前は

室井半四郎でござる。
(p.32)

このシリーズ、源九郎が年配なのでジジイとか多いのですが、この武士はイケメン。浜乃屋のお吟がポッとなってしまいます。源九郎はこれが面白くないのですが、悶々とするだけで口には出さないから面白い。我慢するのが流石は武士です。とりあえず追手を退けて長屋に匿うのですが、この室井、何で斬られたのかというと、本人も分からないという。ただ、

家に相続をめぐって揉め事があるのです。
(p.43)

相続はいつの世も骨肉の争いになりますね。しかも、

室井家は、本郷に屋敷のある三千石の旗本だという。
(p.57)

ってことで、結構エリートのようです。相続といっても世継ぎということになると話がデカすぎる。普通に邪魔な奴を殺すレベルの争いが発生するわけです。源九郎はヒントを求めて、室井が修行した道場に話を聞きに行きます。アポなし訪問すると、道場主が会ってくれます。

「わしが福原峰右衛門だが――。華町どのは、だいぶ剣の修行を積まれたようだが、何流かな」
(p.87)

剣の達人は一瞥しただけで相手の力量が分かる、といいますが、プログラマーはそんなの全然分かりませんね。コードを見ないと。この福原もジジイなのですが、なかなか出来る感じです。しかしこの後出てこないのが残念。とかいってるうちに源九郎が待ち伏せされてピンチです。今回のラスボスは大槻。

「上段霞崩し……。よくかわしたな」
(p.106)

冗談のような技名ですが、これが必殺技。源九郎たちの分析によると、

「上段霞崩しは、初太刀で敵の刀をたたき落として構えを崩すことから名付けられたのではないかな」
(p.126)

つまり単なる力技ですね。

そうこうしているうちに、はぐれ長屋で暮らしている室井のところに美少女がやってきます。名前はお春。春が来た。

お春は小石川に屋敷のある千石の旗本、宅間喜十郎の次女だという。
(p.199)

もう結婚が決まっているのですが、世継ぎが結婚するなんていうとさらに危険ゾーンに突入してしまう。しかしお春は長屋に一緒に住むとか言い出します。金持ちの考えることは分からん。もっとも、勝手知ったる場所で戦力を集めて籠城した方が、戦うには有利という考え方もあります。そして本当に攻めてくる。

後はいつものパターンで、逃げる相手を尾行して塒(ねぐら)を突き止め、一人ずつ片付けていく。全部一度は大変だからタスクは一つずつ片付ける、マネージメントの基本ですね。

最後は上段霞崩しを破って武士の情けでトドメを刺してやるというハッピーエンドです。


美剣士騒動-はぐれ長屋の用心棒(30)
鳥羽 亮 著
双葉文庫
ISBN: 978-4575666625

迷い鶴―はぐれ長屋の用心棒

今日は「はぐれ長屋の用心棒」シリーズから「迷い鶴」。6作目ですから、かなり初期の作品になります。

今回の源九郎は、巡礼姿の娘が拉致されるところに出くわします。それを阻止すると、この娘が記憶喪失で、ここはどこ、私は誰、の状態。仕方ないので長屋に連れてきます。巡礼姿は白装束。掃きだめのような長屋で真っ白なので、掃きだめに鶴、ということで、とりあえず「お鶴さん」と呼ぶことになります。

このお鶴さん、小太刀の構えが出来ます。

お鶴は右手の小太刀を前に突き出すように構え、左手を腰のあたりに添えていた。腰が据わり、構えにも隙がなかった。かなり小太刀の稽古を積んだとみていい。
(p.65)

ということは剣の修行をしたのだろう、と源九郎は考えます。しかし誰なのか分からない。しかも敵は襲撃してくる。何とか撃退したら、今度は謎の武士たちがやってきます。これは幸い味方で、そのうちの一人は何とお鶴の許嫁なのですが、残念ながらお鶴は何も覚えていない(笑)。いや笑いごとではない。話を聞くと、お鶴の名前は房江で、

房江の父、田代助左衛門は黒江藩で二百石を喰む大目付のひとりだったという。ところが、一月半ほど前の夜更、田代家に数人の賊が侵入し、助左衛門、妻の登勢、ふたりの内弟子を斬殺して逃走した。
(p.111)

大目付が殺されたのは、汚職がバレそうになったからです。賊は汚職の証拠を奪おうとしたが見つからない。その調書を持って、助左衛門の子供の房江と鉄之助が、逃げるために巡礼姿にコスプレして江戸に向かったわけです。その途中で鉄之助は捉えられ、房江は危ないところで源九郎に助けられたわけですね。

さて、だいたいシナリオは分かったところで、源九郎は黒江藩の家老から呼ばれて、正式に仕事の依頼を受けます。金百両。気乗りしないと見せておいて実はやる気満々です。ところが仕事を依頼されたら早速お鶴さんがアッサリと拉致されてしまう。拉致した奴等は、国許から持ち出した調書を取り戻したいが、どこにあるのか分からない。

「房江、国許より治さんした調書はどこにある」
(p.177)

この時点で、お鶴さんとしては、調書の場所どころか、自分が房江という名前であることすら分からない。

「し、知りませぬ」
嘘ではなかった。お鶴自身にも、思い出せなかったのだ。
「この期に及んで、まだ言い逃れようというのか」
(177)

記憶にご・ざ・い・ま・せ・ん、とか言ってやれ。

カムイ伝とかだとここで残虐な拷問シーンになるはずなのですが、このシリーズ、割とバサバサと人を斬り殺す割に、残虐なシーンは少ないです。映像にしてもR15あたりかな。駿河問いなんて絶対にありえないです。せいぜい青竹で殴って、

若い娘を打擲していて嗜虐的な気分になったのか、目が異様なひかりを帯びている。
(p.180)

これが限界です。

さて、源九郎と菅井は、お鶴さんを拉致した奴等のいる屋敷に討ち入って、沢口という藩士を捕まえます。手荒なことをしたくないといいつつ、

源九郎は手にした刀の切っ先を沢口の左足の甲に突き刺した。
(p.206)

これは痛い。お鶴は本当に記憶がないのだから拉致しても埒があかないと説得して、死ぬまで拷問するぞといいつつ、今度は右足に刀を向けます。

「ま、待て」
(p.208)

両足は勘弁して欲しいですよね。お鶴さんの居場所を聞き出したら、武士の情けらしいですが、腹を刀で突き刺して切腹したような姿で殺してしまう。情け容赦ないです。

この後ドタバタがあって記憶も取り戻したところで父の敵討ちをして一件落着、というお約束パターン。今回は父の敵を討つ二人が道場で鍛えていますから、割ときれいに片付きます。


迷い鶴―はぐれ長屋の用心棒
鳥羽 亮 著
双葉文庫
ISBN: 978-4575662351

瓜ふたつ―はぐれ長屋の用心棒

今日は長屋シリーズ【謎】から「瓜ふたつ」。源九郎を向田武左衛門という男が訪ねてきます。瓜ふたつというのは、向田と源九郎が似ているわけです。

向田は、昔、道場で一緒に修行した男です。清水家に奉公していたのですが追い出されたとかいって子供と二人で長屋に引っ越してきます。

これだけでは話も始まらないのですが、殺人事件が発生します。殺されたのは武士。死体を見た向田は、

見ず知らずの者でござる
(p.45)

いつも疑問に思うのですが、「ござる」とか本当に江戸時代の武士は使ったのですかね。それはそうとして、明らかに向田の表情がおかしい。何か隠している。このネタはすぐにバレるのですが、要するにこの裏にあるのはお家騒動です。向田が連れてきた子供は

清水忠四郎さまのご嫡男なのだ
(p.67)

清水家当主の兄の子供だというのですね。ヤバいヤバい。しかも裏事情まで打ち明けたのだから、これは仕事の依頼ということになりますね。最初は、このシリーズにしてはショボい十両という金で護衛を引き受けます。後はいつものパターンですね。長屋が強襲されるが協力して追い返す。相手の戦力を削ぐために討って出る。敵の中に島次郎というのが出てくるのですが、島次郎…

まあいいか。何となくカワイいイメージしか出てきませんが。あと、町医者の玄仙。こういう名前は悪いイメージしかありません。

今回は源九郎と向田が昼にソバを食うシーンを紹介します。午後二時というので遅いランチですね。

ふたりはそば屋の追い込みの座敷に腰を落ち着けると、小女にまず酒を頼んだ。喉も乾いていたので、酒がことのほかうまかった。ふたりで、しばらく酌み交わした後、そばをたぐって腹ごしらえをしてからそば屋を出た。
(p.169)

蕎麦の前に一杯飲むというのが乙ですね。天ぷらと漬物でもあるとなおいいですね~。


瓜ふたつ―はぐれ長屋の用心棒
鳥羽 亮 著
双葉文庫
ISBN: 978-4575663310

風来坊の花嫁ーはぐれ長屋の用心棒(17)

今月も相変わらずの流れで、「はぐれ長屋の用心棒」シリーズから「風来坊の花嫁」。風来坊というと例の青山京四郎。これが貧乏長屋に直接訪ねてきます。次期当主ですから、そんな所に気軽に来る人物ではないのですけどね。何をしに来たのかというと、

「おふたりに、剣術指南を頼みたいのだ」
(p.17)

お二人というのは、もちろん源九郎と菅井です。身分の違いはありますが、知らない仲でもないし、十両くれるというし、あっさり引き受けてしまうのですが、これがまたいろいろお家の中の派閥争いとかあってややこしくなります。特に剣の流派とか、ややこしいですね。皆、オレの流派が一番と思っていますから。

さて、そうこうしているうちに、田上藩の家臣の柿崎がばっさり斬り殺されてしまう。一撃なので下手人は手練です。さらに、死にはしませんが、菅井も斬られてしまうし、菊江も襲撃される。菊江って誰?

これが風来坊の花嫁候補なのです。若様の結婚話なんてのは政略結婚に決まっていますが、今回はお互い気に入っているので問題はない。しかしそれが気に入らない奴等もいる訳ですな。ということで、今回のミッションは、いろいろ邪魔してくる奴を片付けること。菊江も狙われているので守って欲しい。もちろん依頼主は若様ですから、百両ほどポンと出してくるので、簡単に契約成立になります。

ちなみに、はぐれ長屋の連中、大金を受け取るとすぐに十両で飲みに行くんですよね。当時の1両は諸説ありますが、今の金額にすれば10万円程度ですか。100万円で5人で飲むって、キャバクラでぼったくられる感覚か、銀座でママさん囲むか。まあ一晩で飲んだわけでもなさそうですが。

今回の見どころは、まずは御前試合。源九郎に勝負を挑んでくる奴等がいるのです。断ると臆病者ということで、剣術指南にふさわしくないとか言われそう。源九郎的には別にどうでもよさげですが。しかも相手は手強い。手強いと逆に戦ってみたくなる。

源九郎には、こうした戦いを避けるべきではないという思いもあった。剣に生きる者の宿命である。それに、貧乏牢人でこの歳になれば、敗れても失うものはないのだ。
(p.132)

失うものがない人間は強いです。ただ、この御前試合、いろいろ裏があるので試合が面白い。そこは伏せておきます。

試合は何とか勝ちますが、次のクライマックスは秘剣「霞剣」の遣い手、沢田との対決になります。秘剣まで出されては後には引けん【寒】。

どういう対決かというと、菊江様が芝の下屋敷に見舞いに行くことを敵は察知して、待ち伏せて片付ける計画を立てている。そのことを察知した源九郎達が護衛することになります。狙われていると分かっていたらそんな危ないところ行かなければいいのに、絶対に行くということになっている。しかも青山の若様までついていくと言い出す。こうなると源九郎と菅井が同伴しても防げるかどうか。そこで、ちょっとした罠を張ります。

「青山さまと菊江さまには、少々あぶない橋を渡ってもらうことになるが」
(p.227)

これに皆が乗っかってしまうから、ほんまにいいのか、って感じもしますけど。ま、それなりの策ではあります。

最後、全部片付いたところで、また若様が長屋にやってくる。何しに来たの、そういう身分じゃないでしょ、といいたいところだが、菅井と将棋をするという。しかも意外なリクエストがあって、源九郎がおふくを呼びます。

「青山さまがな、おふくの煮染が、食べたいというのだ」
(p.279)

武家屋敷には庶民の味付けの食べ物はないのでしょうね。しかし煮染なんて、すぐにできるモノじゃない。おふくとしては食べさせてあげたいのだが、ないものはない。しかぁし、源九郎は店で買ってこいといいます。

「田村屋の煮染でいいのだ。青山さまに、味は分からん」
(p.280)

青山様、騙されてますぜ(笑)。

「おふく、この長屋で煮染を馳走になったこと、生涯忘れぬぞ」
(p.282)

何か重要なところでミスっているような気もするけど、おふくはまんざらでもないようだし。個人的には糠漬けでも所望して「このお漬物がっ!」位は言って欲しいところですが。今は若様ですが、当主になるともうここに来ることはできないから、挨拶代わりに来たらしいのですね。粋な若様なのです。


風来坊の花嫁ーはぐれ長屋の用心棒(17)
鳥羽 亮 著
双葉文庫
ISBN: 978-4575664171