Phinlodaのいつか読んだ本

実際に読んでみた本の寸評・奇評(笑)

ミレニアム

タイムトラベル…って死語なのかな、今だとタイムワープというのか? つまりSFですわ。キーワードは幼弱者かな。物語は飛行機が衝突する大惨事から始まる。超レアな確率で衝突したのは 747とDC-10で、もちろん両機墜落だから全員この世の人ではなくなってしまうのだが、事故の報道対応のシーンとか超リアルなのが乙です。専門家的にはリアルかどうか議論があるようですが、専門家ではないので分かりません。

ヒロインはルイーズ・ボルティモア。見出しには救奪隊隊長と書いてあるけど、救奪隊って何のよ、というところから説明するのは億劫なのでタイムパトロール的な何か、ということでお許しを。タイムパトロールだけに金銭感覚、じゃないや、被害感覚が凄いです。

つまり、核兵器で起こりうる最悪の事態はなにかっていうと、数百万人の人が死ぬことでしょ。
(p.86)

こんなのは誤差だって話で、

時間旅行では、全宇宙が破壊されることもありうるわ。
(p.86)

スケールでかいですね。化物語シリーズで全世界が滅亡という時空間シナリオがあったような気もしますが、小さい小さい。しかし、テロリストじゃないけど破壊主義者とかいるじゃないですか。世界が破滅してしまえ的な。そういうのが1人いて、やらかしただけで、全宇宙が消えるわけだ。そうなるとやはり神の出番かもしれません。

コンピュータ感はいまいちかも。コンピュータは専門家なので私の評価が辛いのかも。

コンピュータはとっくの昔にひじょうに複雑で精密な機械になっているから、もはや人間が指示を出すことすら不可能になっているのだ。
(p.161)

指示云々は同感なんだけど、個人的にはコンピュータはリアルな世界で近い将来「機械」でないナニカになるような気がしています。機械では対応できなくなって。そして、もうとっくの昔にリアルはフィクションを超えています

さて、このストーリーも(も?)ちょいエロなシーンとか出てくるので、そういうのがお嫌いな人はご遠慮ください的な感じも若干あるけど、ハードな話でもないので気にしないでいいかもしれないし。ルイーズがこんなことを言うシーンがあります。

あなたが寝ようとしている相手のもっているのが、本物なのか、それともよくできた贋物なのか知ることはできない。
(p.93)

本物って要するにアレのことです。ルイーズは女性だからね。


ミレニアム
ジョン・ヴァーリィ著
風見潤
角川文庫
ISBN: 978-4042731016

受験は要領

今は大きな書店に行くと、受験のノウハウを記した本、いわゆる受験本が何百冊も置いてあるのだが、昔はそんなことはなかった。パイオニアといわれているのが、和田秀樹氏の書いたこの本、「受験は要領」である。1987年に出たものをベースに書かれた改訂版が今回紹介する本だ。総論としては妥当な内容であるが、各論としてはいろいろ異議もあるので今回は突っ込みメインで評する。

全体をザックリまとめると、受験は考えて発想してひらめいて才能でクリアする…のではなくて、作業で機械的にやっちゃえ的なノリ。大学の入試問題はパターン認識で解けるよ、という主張はその他大勢が述べているし、個人的にも基本的に同感だ。

その中で、ながら勉強は厳禁と主張している。まずここに突っ込みたい。音楽を聴きながら勉強するのはどうよ、という質問は Yahoo!知恵袋でも FAQ なのだが、和田さんは否定派だ。

じつは、かくいう私も、高校二年生まではこの「ながら族」で、ラジオを聞いたり、好きな音楽を流したりしながら机に向かっていたが、その結果、絶望的な劣等生になってしまった。
(pp.71 - 72)

実は私は高校三年生までとそのあともずっとこの「ながら族」で、ラジオを聞いたり好きな音楽を流したりしながら机に向かっていたし、今も向かっているのだが、その結果、現役で第一志望の大学に合格して「何でオマエが…」みたいな言われ方をしたような気がするのだが、本当にその「ながら」で成績が落ちるのかというと、そんなことはないという生き証人が自分自身なのでここは力一杯否定できる。音楽を聞きながらでも合格する人はするのだから、原因は別にあるんじゃないのか。

ところで、和田氏は他でこのようなことも書いている。

意外なようだが、喫茶店という雑音の多い環境が、集中力を生むこともあるのだ。
(p.90)

つまり、音楽を流しながらは NG だけど、喫茶店のような雑音の多い環境OK だというのだ。とても脳科学が分かっている人の主張とは思えないのだが、おそらくこういうことだろう。喫茶店の雑音は脳で理解・認識するわけではなく、無視しようとするから、無視するというプロセスにより集中力が高まる。これに対して、音楽を流しながらの勉強は、音楽を認識することに意識を集中させてしまうため、勉強に集中できない。

だったら、音楽やラジオももスルーすればいいだけの話なのでは?

人間は1つのことにしか集中できないようにできている。だから読書に熱中しているとアナウンスを聞き逃して電車を乗り過ごしてしまう。音楽に集中していたら勉強できないのは当たり前だ。しかし、勉強に集中していたら音楽が流れていても脳には届かない。少なくとも大脳の集中処理装置には届いていない。要するに、和田さんは高二までは勉強のやる気がなかったためにラジオに集中していたのではないか。

とはいっても、音楽やラジオがない方がより集中できるんじゃないの、という疑問はあるだろう。もっともだが、あなたの生活環境に、無音になれる場所はあるか? あればいいのだが、私の場合は無音は難しかった。自分の部屋にいても、リビングの音とか聞こえてくる。音楽やラジオより、そのような音の方が気になってしまう。音楽は、そのようなノイズを打ち消す効果がある。突発的で不規則な生活音よりも、リピって音楽を流した方が無視しやすいのだ。

さて、話を戻すと、和田氏の必殺技は、今では定番の「解法暗記」である。悩んで大きくなったり考えて解くのではなく、解き方を憶えてしまう。実はこんなのは和田氏が本に書く前からあった技なのだけど、ネットを見ると、未だにこれが理解できない人が結構いることに驚く。つまり、解法と解答が区別できないのである。

余談だけど、ネットでは解法暗記が全く役に立たなかった、入試で不合格になったという人を見かけることがある。和田さんも不思議だとどこかで書いていたのだが、私も猛烈に不思議に思う。もちろん、解法を暗記できなかったから結果に結びつかないという話なら分かる。そりゃダメに決まっている。

しかし、和田式をやった、具体的にいえば数学のチャート式の数千の問題に対応する解法を殆ど暗記した状態で、入試問題が解けないなんてことが本当に有り得るのか?

二つ可能性があると思っている。一つは、実は暗記していない場合。個人的にはこちらじゃないかと思う。暗記したその日は覚えているけど、次の日には忘れている、みたいなパターンだ。当然、入試本番では忘れているから解けない。これはダメだったという人に覚えている解法を全部書いてもらえば検証できるのだが、残念ながら、そのような検証データは見たことがない。

もう一つの可能性は、解法ではなく解答を暗記していた場合である。つまり、意味が分からないけど解答を丸暗記した場合だ。

解法は問題の解き方のことである。解答ではない。解答は説明するまでもなく、答そのものだ。

解答を暗記しても、入試では全く同じ問題が出ることは稀である。見たことがない問題の解答は覚えてないから、解き方を暗記していないと、当然解けない。

しかし、解法ではなく解答を数千も暗記できるものなのだろうか? 人間は基本的に理解できないことは記憶できない。だから電話番号のような無意味な数字は、人名などにリンクすることで意味を付ける。03は東京、090は携帯電話、のような意味も付ける。歴史の年号のようなものは語呂合わせのような邪道に頼ったりする。そうやって、強引に意味に紐付けるのだ。解答を解法レベルではなく解答として暗記できるというのは、私には超人的な能力に思える。そんなことが本当に人間にできるとは思えないのだが。

話を戻すと、解法を暗記している場合どうなるか。これなら入試で初めての問題が出てきても解ける。計算が全くダメみたいな場合は別として、解き方を知っているのだから解けるのは一見当たり前だ。

そこで、問題集の使い方は、和田さんによれば、こうなっている。

問題集は解くためにあるのではない。解かずにすぐ答えを見て、憶えるためにあるのだ。
(p.109)

断言するのもアレだと思うけど、ここに関しては最近の和田さんは考え方を変えていて、確か、5分考えてから答を見ることを推奨していたと思う。5分というのはその他大勢の人が主張している。解答をすぐに見るのは、先日紹介した「偏差値29からの東大合格」の杉山奈津子さんが主張しているが、トレンドではない。少し考えてから答を見るのは、その方が暗記が定着しやすいから、というのが定説だ。

ここまでが伏線である。次の異議アリは、問題集の乗り換え案内。

よく、一度暗記してしまうと、同じジャンルの新しい問題集に乗り換える人がいる。本人は情報の幅を広げようとしているのだろうが、私から見れば、これは時間のムダ意外の何ものでもない。まったく新しいことを不正確に憶えるために苦労するよりは、いまある記憶をより確実にするほうが、実際の入試では、はるかに実践的だ。」 (p.118)

この後数学のチャート式の話が出てくるから、ここは数学の話と想定していいはずである。「暗記」と言っているのはもちろん解法暗記のことである。

解法を暗記したかどうかを確認する最もよい方法は、同じ解法で解ける別の問題を解いてみることだ。同じ問題だと、解法を暗記したつもりで解答を覚えてしまっているかもしれない。だからチャート式の場合、例題の後に同じ解法で解ける別問題が練習問題として配置されている。

解法暗記は万能か。実はそれだけではまだ足りない。入試で初めて見る問題は、どの解法を使えば解けるのか判断できないと解けないのである。つまり、問題を見て解法を選択する能力も重要だ。

この能力は、1つの問題集に拘るよりも、いろんな問題集にあたって、同じ解法で解く問題を経験した方が、効率的に高められるのではないか。というのが私の意見だ。チャート式だけやり尽くしたら他の問題も全部解けるような人はむしろレアではないだろうか。もちろん、解法も暗記できていないのに他の問題集に手を出すのは論外だ。しかし、解法が暗記できているのなら、あるいは、暗記しようとしているのなら、同じ解法を使う多種の問題に触れる方が、1つの問題に拘るよりも、はるかに実践的だと思う。

さて、次の異議は予習である。和田さんは予習否定派のようだ。

もし、君が授業のまえにいつも予習しているのなら、今日から予習はやめてしまい、貴重な時間を復習のために使うことをおすすめする。受験生にとっては、予習は時間がかかり過ぎ、暗記の貯金にもならない。
(p.146)

この項は「三時間の予習より三〇分の復習のほうが、はるかに暗記量を増やす」というタイトルが付いているが、その根拠が非常に偏っていて非合理的な気もするのだが、そこは今回はザックリとスルーする。興味があれば原文を見てください。私の反撃したいのはそこではないのだ。

3時間予習するから時間がなくなるのである。そもそも予習と復習を比較するのなら30分の予習と30分の復習、どちらがいいかという話にしないとアンフェアだと思うのだが、実は予習は3分でいい。教科書をざっと見ておいて、分からないところに腺でも引いておく。それだけでいい。もしそうなると、問題はコロっとすりかわって、

3分の予習と30分の復習

という話になるわけだが、この3分の予習が、暗記量を劇的に増やす効果がある、というのが私の主張である。このネタは「テストの花道」でも紹介されているから原理は説明しないが、予習で1回チラ見したものが授業で繰り返されると暗記にプラスの効果があることは、心理学を少し知っている人なら説明しなくても分かるだろう。

ところで、和田さんは授業に集中してノート取る派のようだ。灘高のようなウルトラハイレベルの授業ならそれで入試対応できるのは当然だが、偏差値50の高校でもそうなのか、というのは読む人が疑惑を持っていた方がいいかもしれない。

最近はノート取らない派の人もいるという。後で書くとか。私はどちらかというとノート取る派だったけど、和田さんのノートの取り方、ていうかノートを取る目的は、

しっかりと読み返し、内容を覚えることだ。
(p.150)

だという。私の場合は、ノートは「憶えたということを確認する」ために書いていた。つまり、ノートに書く前に憶えるというやり方である。書くことで暗記する、でもいい。書いた時点で頭に入っているから、その後は殆ど見直さない。まあでもこれはやり方の問題で、どっちでも結果が同じなら構わないと思う。

次は揚げ足取り(笑)。数学の問題を解くことについて。

一〇〇〇題近くもある問題を、いちいち自力で解いていたらいくら時間があっても足りない。かりに、全部で二〇〇〇題の問題を自力で解くとしたら、毎日、一日五題解くとしても、一年以上かかることになる。
(p.175)

2000÷5 = 400 日だから、確かに1年以上かかりますな。でも400日で終わるでしょ。いくら時間があっても足りないという最初の主張を自分で否定している自己矛盾。たった400日だよ。実は私は赤チャートを全部自力で解こうとした。解答を見ないで解いたのだ。どうしても解けないのが数問あったと思うが、そんなものだ。だから、誰でもできるとはいわないが、入試までの時間内で解ける可能性があることは自分自身で証明したことになる。ちなみに、赤チャートだけでなく、他の問題集も解いたし学校指定の問題集も解いてZ会までやってた。ソレ位なら現役でもやる時間はあったのだ。浪人してもいいのなら、もっと時間はたっぷりあるだろう。

ま、揚げ足取りは不毛なので、多少は毛のある話をしておくと、例えばチャート式なら、例題を模範解答を見て解いた後、次の練習問題を自力で解くという方法もある。自力といっても解法は既知だから、簡単に解けないとおかしい。前述したように5分考えてみる手もある。解けるのなら自力で解いてしまえばいいし、解けなかったら解答を見ればいい。これなら時間もかなり短縮できるだろう。

最後に、入試本番であがったときの対応なのだが、

私は試験会場で可愛い女の子を探すことで自分を落ち着かせた。
(p.249)

発見しちゃったら、何かかえって興奮しそうな気がしますけど。ていうか灘高だからできる裏技じゃないのか。私は共学だったので…とはいっても、ルーティンを作るというのは別に悪くはないと思うし、それが自分のやりたいことなら何でも構わない。ただし、試験が始まった後は、あまりキョロキョロすると余計なことを疑われるので危険かもしれない。

さて、だいたい反論を力説したいのは、この程度のものである。この本にはおそらく100を超えるメソッドが出てくるが、その殆どは私も同感というか、古くからトップ進学校では普通に実践されてきた定番なので、参考にしていいだろう。ただ、和田氏はその後、多数の本を書いている。具体的な勉強法を知りたいのなら、この本よりも、受験の種類や現状に応じたやり方を細かく書いた本があるから、そのような本を選んだ方がいいと思う。



難関大学も恐くない 受験は要領―たとえば、数学は解かずに解答を暗記せよ
和田秀樹
PHP文庫
ISBN: 978-4569577173

なぜ闘う男は少年が好きなのか

闘う男というのは歴史に出てくる豪傑のことですね。最初に出てくるのは武田信玄です。タイトルは「少年が好き」なんて婉曲な表現をしてますが、要するに男色のエピソードを気軽に紹介している本です。日本の武将はもちろん、世界中の歴史的な逸話を紹介しています。大学受験で歴史を選択する人は、特に女子高生、これを読むとモチベが上がるかもしれません。

中国の例ですが

捕虜の羌族を去勢すべき日を甲骨で占った殷王は、附属のトーテムをたてまつり、敵に呪いの言葉をはき、遺族の男は殺し尽くし、女は犯し、子供はかたっぱしから去勢する、恐るべき祭祀王でした。
(p.75)

中国四千年の歴史が今も受け継がれているという人がいます、ていうかその通りですが、このような思想も受け継がれているのでしょうか。この逸話は前漢の時代のことのようですが。

国は変わってヨーロッパ。キリスト教は同性愛厳禁というイメージがありますが、イエスの逸話が。

彼と美しい愛弟子ヨハネはただならぬ関係にあり、
(p.108)

マジすか? 宗教に関わってくるととんでもない結果になりそうで怖いですけど。

また、フランスに飛ぶと、おっぱいが綺麗だったジャンヌ・ダルクと共に闘ったジル・ド・レの話は壮絶です。ここに書くと強制削除されそうなのでやめときます。p.119 あたりを読んでください。

日本に戻って、空海。ご存知ですよね、

平仮名から温泉、果ては讃岐うどんまで、何でもかんでも開祖にされてしまう人
(p.146)

その空海が男色だというのですが、古文でも僧侶の男色系の話、たくさんあります。学校の古典の授業でやりましたよね。ちなみに最澄の話もあります。

比叡山には、最澄が初めて登山した際、美しい少年に出会ったという伝承が残っています。
(p.156)

そりゃま、ぶちゃいくな少年少女に出会ったという伝承はあまりないですな。インパクトもいまいちだし。ていうか美的感覚って確か時代で激変するはずですが。

歌舞伎の話で面白かったのは、女性が演じるのは風紀を乱すという理由で禁止令が出る。これも社会の授業で習いましたよね。その結果女形という文化が発展した。現金を売るの禁止したらチャージしたICカード売っちゃえ、みたいなノリです。ところがさらに少年も禁止されてしまう。少年も風紀を乱すというのは、そういう性風俗があるからこそです。このときの「少年」の判定が前髪立ち、ということなのですが、じゃあ前髪剃ればいいよね、というのが野郎歌舞伎。これは私は習った記憶がないです。

「チラチラ見え隠れするのがかえってたまらん」
(p.204)

パンチラ的な? 対応する文献が書いてないですが、巻末にずらずら並んでいる数十冊の参考文献のどれかに出ているのだと思います。

そろそろ疲れてきたので後は省略しますが、世界の通過儀礼とかオスカーワイルドの話とか、とにかく盛りだくさん【なにが】の一冊です。



なぜ闘う男は少年が好きなのか
黒澤はゆま
KKベストセラーズ
ISBN: 978-4584137857

新海誠監督作品 君の名は。 公式ビジュアルガイド

昨年大ヒットしたアニメ映画「君の名は。」の公式ビジュアルガイドです。

かなり小さいコマが多いですが、映画のシーンが多数収録されています。三葉の通っていた高校の正式名称が出ているシーンがなかったっけ、と思って確認したかったのですが、見つかりませんでした。映画でも出てこないかもしれませんけど。ちなみに瀧くんの高校は東京都立神宮高校学校ですね。

コラム「〈とりかえばや〉のサブテキスト」に、とりかえばや物語が出てくるのはいいとして「ぼくは麻理のなか」が出てくるのは驚いたな。ちなみに男性が片思いの女性の体に入ってしまうという話で、本当にそんなことがあったら実際にやりそうなことはだいたいやってます。変態マンガです(笑)。もちろん「君の名は。」にはそんなシーンはありません。私は「とりかえばや物語」は古文で読んだのですが途中で挫折…いや、読んでいる途中です。

他には声優さんの対談記事や、RADWIMPS さんのインタビュー記事、新海誠監督のインタビューなど、いわゆるこの種の公式ガイドブックに出ていそうなネタはだいたい出ています。

ただ、ある見方をすれば、あのラストはスタートに過ぎなくて、その先がすべて約束されているわけじゃない、(略)
(p.60)

監督さんのインタビューに出てくる内容ですが、それは新たなる戦いの始まりに過ぎない的なモチーフなんですよね。

こういう本はアニオタじゃないとあまり興味ないような内容で、ストーリーとか知りたいのなら文庫本を買った方がいいと思いますが、この本で役に立ちそうなのは62ページから65ページの「東京ロケーションMAP」かな。例えば代々木駅なら「新宿から千葉方面に向かう総武線のホーム」(p.64)というレベルで説明が出ています。私は東京は長いし新宿は拠点なので映画の光景も知っている所が多いのですが、東京に行ったことがなくて聖地巡礼したい人なら、役に立つかもしれません。

写真は最近ミュシャ展を見に行ったときに撮ったサロン・ド・テロンドです。恥ずかしながら、映画見てから初めて行ったので、映画を見ていたときには全然気付きませんでしたが。私は奥寺先輩推しなので、デートの場面を知らなかったというのは残念です。

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新海誠監督作品 君の名は。 公式ビジュアルガイド
KADOKAWA/角川書店
ISBN: 978-4041047804

罪の声

グリコ・森永事件という実在の事件を参考にしたフィクションです。フィクションにしてはやけにリアル【謎】な感じがしますが、当時はこの小説に出てくるような、そういう目的の犯罪だとは思ってなかったですね。

トーリーは事件の時効が成立した後に犯人の身内が証拠物件を発見するところから始まります。当時の情勢をリアルに知っていると生々しさが半端ないです。とはいっても当時を知らない人にとってもリアルな描写がたくさん出てきます。例えば、前半に出てくる清太郎の死についての描写。

その後、襲撃犯の一人が捕まって清太郎さんの名誉が回復されても、会社関係者は線香一本上げにこなかったと、達雄はえらい剣幕でした
(p.51)

このように、誤解で叩かれた後、誤解が解けても誰も謝らない。叩いたまま。今も大抵そうですね。よくある話です。当時の文化的な背景もちょこまかと出てきます。

「ベーマックスはなくなるの?」
(p.67)

なくなったような気がしないでもない。うちは、ビデオデッキがまだ物置にあります。

読んでいる途中で気になったところは、

しかし、ここから刑事たちは、数々の不運に見舞われる。
(p.73)

不運で片付けるのはありがちだけど、そんなに unlucky は重ならないものでしょう。最後に少しネタが出てきますが、それとはあまり関係ない一般論をしては、あまりにも上手くいかない場合は内部に裏切り者がいるというのが常識ですよね。少し大きな会社ならそういうことはよくあるし、警察のような大きな組織だともっとありそうな話。コミック「モーニング」で連載中の「鳥葬のバベル」にそういう設定が出てきます。連載は終わっていますが「ギャングース」もそんな感じですね。

圧巻は犯人グループの一人が終盤で告白するシーンです。

若かった私は、人は満たされると腐るのだと悟りました。
(p.311)

こういう哲学的、思想的な内容がいろいろ出てくるのは深いと思います。

今やったら、監視カメラやら通信記録やらで、もっと早くに追い詰められてたでしょうね。
(p.323)

まあそりゃそうですね。今あるシステムを使ったハイテク犯罪になっていたことでしょう。そういえば消えたビットコインはどこに行ったのでしたっけ。



罪の声
塩田 武士 著
講談社
ISBN: 978-4062199834

100億稼ぐ仕事術

この本はダントツに読みやすいと思った。一気に読めるのである。そういえば、ビジネス啓蒙系の本でここまで読みやすいというのは珍しいと思うのだが、それっておかしな話だと思う。ビジネスに成功ためには人脈を確保するというプロセスが不可欠なわけで、そのために必須なのがコミュニケーション技術である。従って、本当は分かりやすいだけでなく、相手の興味を惹くような表現力も必須になるわけだ。

まあそれはそうとして、最近はTVにも出たりしているから、堀江氏を知らない人は少ないと思うけど、念のため。エッジ(*1)の社長さんである。

この本、書いてあることも分かりやすいし単純だし、理にかなっているし、読んだ人が「これなら私にもできるな」とか思うかもしれないが、実際そこがとんでもない。簡単なことほど難しいとか禅問答する気はないが、実は書いてあることが、こんな簡単な…と安易に結論が出せるような内容ではない。「やれば出来る」なんて格言もあるけど、もしここに書いてあることが実際にできる人がいるとしたら、その人は、多分高校二年から勉強して東大に入れるレベルの実力があるわけですよ(*2)。そこを勘違いして生兵法で真似したらとんでもないことになりそうな。

まあでもそこそこ成功するという目標でよければ、全部実践する必要はないのかも。

内容としては、一言でいってしまえば、メールをうまく使え、という話(*3)。すみません、はしょりすぎましたか。もっとも、メールというのは本質ではないのだが、それはおいといて、メールを1日平均5000通読んでいるというのが面白いと思った。1秒に1通読めば1時間に3600通か…。不可能ではないかもしれないが、人間としては、このあたりが限界なのだろうか。あと面白かったのは、名刺の整理は難しい、って話。

5万通読めるか、50万通読めるか、ということになるとどうだろうか、というのが気になるのである。私は。

ネタの中にはprocmail とか出てくるわけだけど、ある程度読むところまでコンピュータに任せることができたら読めるメールの数はいくらでも増える。コストカットのアイデアは無限というのが堀江氏の主張である。しかし、人件費節減といっても、最後に自分までカットするというのは想定しているだろうか?そして誰もいなくなるというのかITの究極の姿。

Cマガジンに昔書いたけど、個人的には、伝票チェックするソフトっていつかは作りたいものの一つだと。ちょびっツに出てくるのだ。人間が伝票をチェックする作業を支援するソフトはいくらでもありそうだが、パソコンが自分でチェックするソフトはまだないわけで、それができたらチェックする人をカットできると。

書評になってないナー?

(*1)
2004年に株式会社ライブドアに社名が変わった。

(*2)
堀江氏は高3から本気で入試勉強を始めたと自称している。ただし高校は東大に毎年数十名合格するようなレベルなので、普段の勉強が役に立ったことは言うまでもない。

(*3)
当時は LINE(2011年開始) も twitter(2006年開始) もなかった。 Facebook(2004年開始)が、このころ始まっている。


100億稼ぐ仕事術
堀江 貴文 著
ソフトバンククリエイティブ
ISBN: 978-4797325409

(※この書評は2004年2月21日に書評: 100億稼ぐ仕事術: Phinloda の裏の裏ページに投稿した内容を加筆・修正したものです)

マダム・ジゼル殺人事件

古典的な正統派ミステリーといえばレジェンドの作家が大勢いらっしゃるのですが、今日はアガサ・クリスティさんからあまり有名でなさそうな作品をひとつ紹介しましょう。マダム・ジゼル殺人事件。

この本、私が持っているのと表紙も同じです。平成二年八月二十五日発行、と書いてあるので初版ですかね。ボロボロですが(笑)。

この話は飛行機の中が現場で密室殺人、つまり犯人は基本的に【謎】搭乗した客の中にいます。基本的というのは外に共犯がいるかもという感じで。吹き矢という珍しい凶器が出てきます。この吹き矢の筒が発見された座席に座っていたのは、名探偵エルキュール・ポワロです。並の人ならこれで犯人にされて逮捕となるわけですが、ポワロは並ではない有名人なので警察と協力して犯人を捜すことになります。殺されたマダム・ジゼルは金貸しで、ハイソな人達に無担保で金を貸すのが仕事。無担保だと貸し倒れになりそうなものですが、返してくれないお客様にはすごい手を使います。

「つまり、恐喝です」
(p.85)

返さないと秘密を暴露するといって脅すわけですね。社会的地位が担保です。秘密がバレるとヤバいから、大抵の人は返すことになっています。マダムのメイドのエリーズが、金を借りに来る人達を非難してこんなことを言ってます。

収入以上に贅沢な暮しをし、さんざん借金をしたあげく、借りたのではなく、もらったものと思っていたといわんばかりの態度を取るなんて、理不尽な話でございますよ。
(p.126)

金色夜叉に似たようなセリフがあったような気がしますね。借りる時はとことん頭を下げて、借りたら約束を守らず偉そうな態度になる、どこの国も同じようです。

この作品もポワロの性格がちょこまかとよく出ています。

「あなたは他人を信用しすぎますよ。何びとといえども、そう頭から信用するのは感心できません」
(p.92)

人間を信用するなというのはヨルムンガンドというコミックに出てくるキャスパーも言ってますが、痛い目にあいたくなければ、基本的に人間は信用しない方がいいですね。信用しているかのような行動で十分でしょう。もっとも、ポワロの場合は根拠なく信用するなという意味合いが強いようです。論理主義者ですから、論理的に不整合があることを嫌います。こんなことを言ってます。

私はすべての人を疑ってかかるのです。
(p.136)

ポワロのメソッドですが、これは推理小説の基本パターンですね。まず候補を洗い出して、それをフィルターにかけて1人ずつ候補から外していきます。消去法です。これにもちょっと理由があるようです。殺人事件を解決するにあたって最も大切なことは何か。ポワロの答はこうです。

私にとってもっとも大切なことは、無実の人々にかけられている疑いを晴らすことだと考えているのです
(p.208)

それ故に消去法なんですね、ポワロの場合、その人が犯人ではないと断定することが重要なわけです。では、どうやって消去していくか。ポワロは容疑者の話を聞きます。そこに解決のヒントがあります。この話は最後に犯人が墓穴を掘ってしまうシーンもありますが、ポワロは挑発的な言動も得意なのです。

誰でも、自分自身のことは話したがるものです
(p.234)


マダム・ジゼル殺人事件
中村妙子訳
新潮文庫
ISBN4-10-213518-9