Phinlodaのいつか読んだ本

実際に読んでみた本の寸評・奇評(笑)

マダム・ジゼル殺人事件

古典的な正統派ミステリーといえばレジェンドの作家が大勢いらっしゃるのですが、今日はアガサ・クリスティさんからあまり有名でなさそうな作品をひとつ紹介しましょう。マダム・ジゼル殺人事件。

この本、私が持っているのと表紙も同じです。平成二年八月二十五日発行、と書いてあるので初版ですかね。ボロボロですが(笑)。

この話は飛行機の中が現場で密室殺人、つまり犯人は基本的に【謎】搭乗した客の中にいます。基本的というのは外に共犯がいるかもという感じで。吹き矢という珍しい凶器が出てきます。この吹き矢の筒が発見された座席に座っていたのは、名探偵エルキュール・ポワロです。並の人ならこれで犯人にされて逮捕となるわけですが、ポワロは並ではない有名人なので警察と協力して犯人を捜すことになります。殺されたマダム・ジゼルは金貸しで、ハイソな人達に無担保で金を貸すのが仕事。無担保だと貸し倒れになりそうなものですが、返してくれないお客様にはすごい手を使います。

「つまり、恐喝です」
(p.85)

返さないと秘密を暴露するといって脅すわけですね。社会的地位が担保です。秘密がバレるとヤバいから、大抵の人は返すことになっています。マダムのメイドのエリーズが、金を借りに来る人達を非難してこんなことを言ってます。

収入以上に贅沢な暮しをし、さんざん借金をしたあげく、借りたのではなく、もらったものと思っていたといわんばかりの態度を取るなんて、理不尽な話でございますよ。
(p.126)

金色夜叉に似たようなセリフがあったような気がしますね。借りる時はとことん頭を下げて、借りたら約束を守らず偉そうな態度になる、どこの国も同じようです。

この作品もポワロの性格がちょこまかとよく出ています。

「あなたは他人を信用しすぎますよ。何びとといえども、そう頭から信用するのは感心できません」
(p.92)

人間を信用するなというのはヨルムンガンドというコミックに出てくるキャスパーも言ってますが、痛い目にあいたくなければ、基本的に人間は信用しない方がいいですね。信用しているかのような行動で十分でしょう。もっとも、ポワロの場合は根拠なく信用するなという意味合いが強いようです。論理主義者ですから、論理的に不整合があることを嫌います。こんなことを言ってます。

私はすべての人を疑ってかかるのです。
(p.136)

ポワロのメソッドですが、これは推理小説の基本パターンですね。まず候補を洗い出して、それをフィルターにかけて1人ずつ候補から外していきます。消去法です。これにもちょっと理由があるようです。殺人事件を解決するにあたって最も大切なことは何か。ポワロの答はこうです。

私にとってもっとも大切なことは、無実の人々にかけられている疑いを晴らすことだと考えているのです
(p.208)

それ故に消去法なんですね、ポワロの場合、その人が犯人ではないと断定することが重要なわけです。では、どうやって消去していくか。ポワロは容疑者の話を聞きます。そこに解決のヒントがあります。この話は最後に犯人が墓穴を掘ってしまうシーンもありますが、ポワロは挑発的な言動も得意なのです。

誰でも、自分自身のことは話したがるものです
(p.234)


マダム・ジゼル殺人事件
中村妙子訳
新潮文庫
ISBN4-10-213518-9