Phinlodaのいつか読んだ本

実際に読んでみた本の寸評・奇評(笑)

軍師の境遇

今日は松本清張さんの「軍師の境遇」。3つの作品が入っています。

最初の作品「軍師の境遇」は黒田勘兵衛のストーリー。官兵衛は牢獄に長期閉じ込められ、人質の子供が殺されてしまう(後で生きていたことが判明)という悲運を背負った人物なので、軍師ネタとしては人気があります。

最初の小ネタは、重臣の会議が錯綜してまとまらない時に、勘兵衛がなかなか出席しないという話。

評議というものは、ああでもない、こうでもないと長い時間にいい合った末、いつか疲労困憊した空気が沈潜する。そのとき、新しくきた人の強い意見が新鮮に思われ、一座を押し切ってしまうことが多い。
(p.24)

病気だと偽って何日も会議を休んだというのです。皆が疲れた頃に出て行って、織田側に付いた方がいいと強引に主張すると、皆もう疲れているので、じゃあそれで行こうという結論になってしまうわけです。官兵衛はその時点でももう使者に出る準備まで終えているというシナリオです。流石は名策士です。

その後、勘兵衛の子供は織田信長に人質として差し出すことになりますが、そこで勘兵衛はこんなことを言います。

知らぬ国に行って父母とはなれて暮らすのも大事な修業だ。
(p.64)

勘兵衛の子供、松寿(しょうじゅ)はまだ十歳。当時のもう一人の名軍師、竹中半兵衛に預けられることになります。まあいろいろトンデモない修業だったようです。

2つ目の短編「逃亡者」は稲富直家という鉄砲名人の話、3つ目の「板元画譜」は蔦重の話です。蔦重とは蔦屋重三郎のことで、江戸時代の版元、今でいう出版社です。TSUTAYA という名前は、蔦重にあやかるという意味も込められているそうですが、その子孫が経営しているわけではありません。

ということで、最後にちょっといい感じの一言を紹介します。

およそ質問ほどその人の実力を率直にみせるものはない。
(p.76)

何を質問するかを聞けば、その人がどんな人間なのか分かるというのです。そういえば面接の最後で「他に何か質問はありますか」というのは定番ですね。


軍師の境遇
角川文庫
松本 清張 著
ISBN: 978-4041227435