「桜の園」は、チェーホフの古典的名作、戯曲です。今回の本は、他に「プロポーズ」と「熊」という短い戯曲が収録されています。
個人的なイメージかもしれませんが、この戯曲は松竹新喜劇だと思えばだいたい合っているでしょう。「桜の園」のあらすじを要約すると、ラネフスカヤという女地主が借金が払えなくて家屋敷ごと土地を取られてしまう話です。悲惨なシチュエーションですが、雰囲気としてはコメディの要素満載で、笑えるのか笑えないのか微妙ですが。
ラネフスカヤは独特な感性の持ち主です。
あなたは何が現実で何が現実でないか見えているようだけど、私、目がわるくって何も見えないの。
(桜の園、p.98)
こんなことを言い出します。お金がなくて屋敷が取られるのに物乞いに金貨を与えてしまうし、豪気なのです…というわけでもないですが。
「プロポーズ」と「熊」は「一幕の滑稽劇」(ボードビル)となっていますが、どちらかいうと吉本新喜劇です。ドタバタ系のギャグで最後まで突っ走りますが、例えば「熊」ではスミルノフの女性蔑視発言が面白い。
女性なんてものは、老若をとわず、もったいぶった見栄っ張り、おしゃべりで、いじわるで、骨の髄まで嘘つきで、軽佻浮薄、料簡のせまい堅物で、血も涙もなければ、鼻持ちならない論理をふりかざす。
(熊、p.206)
物凄く長いセリフです。役者さん、大変です。その後「スカートはいた哲学者よりスズメのほうがよほどまし」とまで言うのですが、男女の喧嘩なのでそうなりますよね。どんどんエスカレートして決闘になってしまうのです。
桜の園/プロポーズ/熊
アントン・パーヴロヴィチ チェーホフ 著
浦 雅春 翻訳
光文社古典新訳文庫
ISBN: 978-4334752590