今日は「はぐれ長屋の用心棒」シリーズに戻って「秘剣霞颪」。例によって(笑)、源九郎と菅井が歩いていると、たまたま駕篭が襲われているところに遭遇します。もちろん駕篭に助太刀して賊を撃破。この場は別れますが、後日、長屋に初老の武士がやってくる。名前は倉林、お目付の柏崎藤右衛門の用人とのことですが、この柏崎が先日襲われた駕篭に乗っていたわけです。
実は、柏崎さまは何者かに命を狙われているのだ」
(p.37)
柏崎を護衛して欲しいというのが今回の依頼です。これに源九郎は、
「まさか、御目付さまの命を狙うような者はいまい」
(p.37)
と疑問を投げますが、
「げんに、そこもとたちは、柏崎さまが襲われたのを見ておられよう」
(p.38)
それもそうだし。源九郎は百両でこのミッションを受けます。さてどうしたものかと情報を集めていると、敵に父を斬られたので敵討ちをしたいという若者がやってきます。名前は牧村慶之介。敵というのが、駕篭を襲った奴等なわけですね。慶之介が言うに、
「父は、その男が霞颪(かすみおろし)なる技を遣ったと口にしていました」
(p.56)
でました必殺技! この時点では眉間を割るような技だということしか分かっていません。しかしすぐに、実際に遭遇することになります。
源九郎には武士の刀身が、まったく見えなかった。見えるのは柄頭だけだった。切っ先を後ろにむけ、刀身を水平に寝せているからである。
(p.110)
カムイの得意技に「変移抜刀霞切り」がありますが、これはどちらから刀が出てくるか分からないという技です。刀が見えない系の必殺技に「霞」という名前が付くようです。この時は何とか浅手で済みますが、
「爺さん、なかなかの腕だな。……おれの霞颪をかわすとはな」
(p.112)
ジジイの武士って滅茶苦茶強そうなイメージがあるんですけどね。子連れ狼の柳生烈堂とか。
それはおいといて、長屋の仲間、茂次と三太郎の尾行シーンを見ながら江戸を少し散策してみましょう。
前を行く五人は、行徳河岸から日本橋川沿いの通りへ出た。そこは小網町である。
(p.187)
行徳河岸は東京メトロの行徳駅の近くのようですね。そこから小網町って、結構歩いてません? ここに越野屋という、今回の黒幕の店があることになっています。
前を行くふたりは、入堀にかかる思案橋のたもとで別れた。
(p.188)
武士は堀沿いの道をいっとき歩き、親父橋のたもとで右手にまがった。そこは狭い路地で、通り沿いには小体な店や表長屋などが軒をつらねていた。
(p.189)
本吉原のあたりでしょうか。
しばらく歩くと、武士は浜町堀にかかる高砂橋を渡った。
(p.189)
このあたりは人形町交差点より少し北東方面に進んだところだと思います。江戸地図とか欲しいですね。
さて、霞颪を遣う浪人が立川宗十郎であることを突き止めた源九郎は、桑山道場で話を聞いてみようと思い立ちます。道場をノーアポで電撃取材。
「若いころ、蜊河岸に通った華町源九郎でござる」
(p.218)
これで道場主に分かるというのだから結構な有名人ってことですね。道場主とは面識はないのですが。立川はこの道場の出で、破門されていることが分かります。
「華町どの、立川を討つつもりなのか」
桑山が源九郎に目をむけて訊いた。
「そのつもりでいる」
「立川は、悪人だが並の遣い手ではないぞ。やつは、剣鬼だ」
桑山の双眸が強いひかりを帯びていた。苦悶の表情が消え、剣客らしい面貌にかわっている。桑山も、剣一筋に生きてきた男なのだ。
「承知している。霞颪と称する剣を遣うこともな」
(p.223)
プロはプロを知るといいます。
秘剣霞颪ーはぐれ長屋の用心棒(19)
鳥羽 亮 著
双葉文庫
ISBN: 978-4575664560