Phinlodaのいつか読んだ本

実際に読んでみた本の寸評・奇評(笑)

あ゛-教科書が教えない日本語

今日紹介する本は「あ゛-教科書が教えない日本語」。

ざっくりいうと、日本語に対して、発音と国語教育に注目して考察した本です。

まず発音に関しては、こんなオドロキの指摘があります。

藤原不比等(六五九~七二〇)」は、「プディパラのプペティォ」と発音されていた
(p.118)

昔は濁音や半濁音は表記しませんでした。フと書いてあったらブやプの可能性があるのです。前田慶次が「フヘンモノ」という旗指物を使っていたのを他の武士が咎め、「武辺者」と自称するとは傲慢だと非難したら、慶次がこれは「不便者」と読むのだと反撃した話が有名です。

てな感じで、フシハラというのは実は今の表記ではプジパラだというのです。その発音をさらに正確に厳密に表記すればプディパラだという話です。

発音に関して、もう一つ紹介してみると、

日本語の「ん」は、「ng」と「m」と「n」の三種類の音を表すことができる
(p.147)

表せると言えば高機能に見えますが、要するに区別できないです。

教育に関しては、明治時代から今に至るまで、日本語を学ぶのは無駄で全部英語でやれ、みたいな極論派がいるわけですが、

明治時代以来「漢字は、それを学習するだけ無駄な時間」と考える人は少なくありません。日本語より英語を勉強する方が将来の就職などでも有利だと考えて、経済的に裕福な人はとくに、自分の子どもをインターナショナルスクールに入れたりします。
(p.141)

漢字を学習するのが無駄だという発想には重大な誤解があります。漢字というのは思考に猛烈に深く関わっているのです。漢字を使うことで、脳内の処理が効率的になるのです。

終戦直後、GHQは日本語を改革しようとします。歴史的には、敗戦国の国語が失われてしまうのは珍しいことではありません。最悪の場合、GHQが英語を日本の国語とするように強制する選択肢もあったはずです。もちろんその場合は日本社会が大混乱に陥ることになるので、実際に出た選択肢は、

 ホールは、日本語の漢字、仮名をすべてローマ字化してしまうべきだと強く主張します。
 それに対して、マッカーサーは、これを時期尚早だとし、またそれはGHQの任務ではなく日本人が決める問題だとしたのです。
(p.179)

ホール (Robert K. Hall)は米軍士官です。ホールもマッカーサーも日本語は使えないでしょうから、その点では自分達の読めるローマ字にしてしまえという暴論も理にかなっています。マッカーサーの決断は妥当なのですが、どこまで考察した上での結論なのかはこの本には書かれていません。

漢字を捨て、仮名も捨て、日本語をローマ字で書くようにしてしまうことの有用性を私はまったく感じません。
(p.179)

同感です。漢字や仮名を知らなくても読める、これしかないと思います。しいて言えば日本語のフォントがない環境ても表現できるとか。

結果的にはGHQは日本語改革を日本の有識者に丸投げしました。

GHQ内部での日本語改革についての議論、国内での有識者による新しい日本語への模索が行われる中、国語審議会会長の安藤能成が提出した「当用漢字表」と「現代かなづかいの実施」は、じつは、すでに昭和十七(一九四二)年の国語審議会の審議を受けたものとほとんど変わりのないものでした。
(p.180)

その結果が今に至るのですが、次の指摘は面白いです。

せっかくあった文字を捨ててしまったという点では、非常に残念なことをしたのではないかと思うのです。
(p.151)

「ゐ」や「ゑ」のような仮名が消えたことを言っています。

とはいっても、「あ゛」のような言葉が今使われているのなら、文字コードとして存在している「ゐ」や「ゑ」を日常に復活できる可能性はあると思います。例えば「ww」で笑を表現するよりも「笑う」(ゑう)に対応させた「ゑ」を使った方が日本語としては由緒があるわけです(ゑ)。「ゑ」の発音は「we」なので、wと絡んでくるところが面白いですね。

ところで、なぜ日本語改革が必要なのかという点ですが、

ことばや文字がむずかしいために、義務教育を終えたものでも、新聞雑誌の論説はよく読めない。
(p.180)

明治から教育改革を行って識字率も高くなりましたが、論説の表現が難解すぎて国民には理解できないというのです。これでは論絶です。

現在、新聞は常用漢字で書かれていて、ほぼ誰でも読めるようになりました。ただ、相変わらず何がいいたいのかは分かりません(ゑ)。

この本、気が向いたらもう一度紹介するかもしれませんが、今回は次の一言で〆ておきます。

言葉の「誤用」は、多くの人が誤用するとそれが「正しいこと」になります。
(p.276)

妄想を皆が見るとき、それは現実になるのです。

 

あ゛-教科書が教えない日本語
山口 謠司 著
中公新書ラクレ 772
ISBN: 978-4121507723