結構長いです。ラノベを10冊読んだ感じです。基本的には事故で脳を損傷したマークと、その姉のカリンのストーリー。
弟さんの病態はカプグラ症候群と呼ばれるものです。
(p.85)
これはどのような症状かというと、
自分の愛する人が当人そっくりのロボットや替え玉やエイリアンと入れ替わってしまったと思いこむ。ほかの人のことは普通に本物だと思うんだ。
(p.149)
カプグラ症候群は実在する症候群で、妄想型統合失調症の一種とされているようです。この作品には専門用語がガンガン出てくるため、全体的に医学、心理学の知識がないとちょっとキツい感じがします。
てなわけで、マークは姉のカリンを姉だと認識できず、別人がカリンの替え玉を演じていると考えています。カリンは実の姉であることを証明しようと頑張りますが、否定され続けてだんだんカリンもキツくなってくるわけです。
サブキャラもヘンなのが多くて、例えばダニエルという男性。ダニエルが瞑想しているときに、何を求めてやっているのかとカリンが尋ねるのですが、
「何も! 何も求めない状態を求めている」
(p.104)
この後のやりとりもイミフメで面白いです。
認知神経科学者で作家でもあるウェーバーはカリンに求められてアドバイスを与える役目ですが、この人もだんだんおかしくなっていきます。ネットで著書が酷評されているのを知って、
自分の著書にはつけいられる隙がある。
(p.308)
自己分析はできるわけです。マークに向精神薬を与えてはどうかとアドバイスする時には、
あれに反応する患者の半数は偽薬にも反応する。
(p.443)
こんなことをサラっと言ったりします。
さて、ストーリーと関係なく気になった箇所をいくつか。
美しく文字を書く練習というものは百年前にヨーロッパで死滅したのだ。
(p.352)
筆記体のことでしょうか。日本は書道という「美しく文字を書く」文化がまだ生きています。
アメリカ人の半分は何かしら向精神薬っぽいものをやってるから。
(p.454)
マジすか?
今日の一言はこれで。
今でも母さん宛ての郵便物が来るの。お墓の向こうまでは転送してくれないみたいね。
(p.517)
エコー・メイカー
リチャード パワーズ 著
Richard Powers 原名
黒原 敏行 翻訳
ISBN: 978-4105058739