Phinlodaのいつか読んだ本

実際に読んでみた本の寸評・奇評(笑)

ある言語天才の頭脳―言語学習と心のモジュール性

今日の本は「ある言語天才の頭脳」。

内容はクリストファさんという言語天才に関する論文集です。

クリストファさんは、出産時、または幼児期に問題があった可能性があり、

1982年、20歳の時に、「水頭症による脳損傷のおそれがあり、失行症と見境がつかないほどの運動協応の重度神経障害」と診断された
(p.4)

という状態です。IQをテストすると平均よりもかなり低いスコアが出てきますが、言語テストをすると、普段使っている英語だけでなく、ドイツ語やフランス語でさえも平均よりも高い得点を取るのです。クリストファさんは20ヵ国語を使うことができるとのこと。なぜ脳に問題があるのに言語だけ高い能力を発揮しているのか。さまざまな考察が出てきます。

この本にはクリストファさんが新しい言語を覚える実験も出てきます。1つはベルベル語。モロッコなどで使われています。もう1つはエプン語。これは言語学の研究のために作られた言語で、実社会では使われていません。クリストファさんはどちらも高いレベルでマスターします。

ちなみに、エプン語の学習実験の結論は、こんな感じで始まります。

クリストファに新造語を教えた理由は、まず第一に、フォダーのモジュール仮説の有効性を支持、あるいは反駁する間接的な証拠を出すためであった。私たちが予測したのは、彼の自然言語の諸現象を取り扱う能力と、言語的には「不可能」だが、論理的には単純な現象を扱う能力の間に不釣り合いがあることであった。
(p.207)

ちょっと何言ってるか分かりません。専門家でないと厳しいです。

私がこの本に手を出したのは言語学の研究をするためではなく、AIに自然言語学習をさせる時のヒントが欲しかったからです。言語の構造モデルや精神モデルの図は参考になりますが、知らない言語の例文がたくさん出てくるということもあり、全体的にハードルが高いです。

 

ある言語天才の頭脳―言語学習と心のモジュール性
ニール スミス 著
イアンシ‐マリア ツィンプリ 著
Neil Smith 原著
Ianthi‐Maria Tsimpli 原著
毛塚 恵美子 翻訳
若林 茂則 翻訳
小菅 京子 翻訳
新曜社
ISBN: 978-4788506756