Phinlodaのいつか読んだ本

実際に読んでみた本の寸評・奇評(笑)

社会に出るあなたに伝えたい なぜ、読解力が必要なのか? (2)

今日は昨日に続いて、池上彰さんの「社会に出るあなたに伝えたい なぜ、読解力が必要なのか?」から、気になった箇所をいくつか指摘したいと思います。

まず、池上さんの教育観について。

義務教育である小・中学校、さらには日本では99%の人が進学する高校で、誰しも基礎的な知識は身につけているはずです。知識はあるけれども、その運用力が欠けているため「教養がない」と感じてしまっているだけなのです。
(p.83)

これはまず間違いなく違うでしょう。

池上さんの感覚だと高校で学んだことは頭に入っていて当たり前なのかもしれませんが、普通の高校生なら、授業で教わった知識など三日後には頭から消えています。身に付いていないのです。Yahoo!知恵袋の大学受験カテゴリには「2000の2.5割っていくつですか?」のような質問が出てくる、というのが現実です。

もう一つ、安倍首相が「私たちが最も恐れるべきは、恐怖それ自体です」と言ったことに対して。この言葉はルーズベルト大統領の演説が元ネタになっていると指摘した上で、

もし私なら、自分の言葉を織り交ぜながら、「かつてアメリカのルーズベルト大統領は、世界恐慌の最中、これから世界はどうなるのだろうという不安にさいなまれている人々に向けて『恐れなければならないのは、恐怖それ自体です』と呼びかけました、今こそ私たちも……」などと話したいところです。
(p.89)

これは、池上さんらしいレトリックだと思います。聴衆が分かったように勘違いするけど実は分かっていない、印象操作的な表現になっています。

ちなみに「私たちが…」の原文は「the only thing we have to fear is fear itself」です。厳密に訳せば、私たちが恐れなければならないのは、恐ろしいと思うことだけだ、という話です。つまり、ルーズベルトは「恐れるな」と言いたいのです。安倍さんのニュアンスとは随分違いますね。

そもそも「恐れなければならないのは、恐怖それ自体」と言われても、多くの人が理解できないでしょう。分かるという人は、恐怖それ自体を恐れた場合に、それは「恐怖それ自体」に含まれているのかどうかを考えてみてください。含まれますか? それとも含まれていませんか?

何故単純に「恐れるな」と言わないのかと思いませんか、そこがレトリックです。この種のインパクトのある表現は池上さんが好んで使うようです。理解よりも支持を期待しているのでしょう。本当に多くの人に理解して欲しいのなら、宮沢賢治さんのように「コワガラナクテモイイ」と言えばいい。それで通じるはずです。

もう一つ。

新聞を読まない人は「たまに読んでみても、意味がわからない」と言いますが、毎日読んでいればなんとなくわかってくるはずです。
(p.96)

それはわかったうちに入らないと思いますが…。

少し話が変わります。池上さんが勉強を好きになったきっかけに関して。

どうしてこんな勉強をやらなきゃいけないんだ、という不満は感じていました。それでもわからないから勉強を続けて、一生懸命考えているうちに、ある日突然それまでわからなかったことが分かるという経験を何度もしました。受験勉強を通して、勉強自体がだんだん好きになっていきました。
(p.98)

これは良く分かるような気がしました。禅の悟りにも似た構造があります。考えるということが重要です。この種の「分かった」から勉強が好きになった、という話は多くの人が証言しています。分からないことが分かっただけでなく、「分かる」ということが分かるようになった瞬間です。


社会に出るあなたに伝えたい なぜ、読解力が必要なのか?
講談社+α新書
池上 彰 著
ISBN: 978-4065201169