Phinlodaのいつか読んだ本

実際に読んでみた本の寸評・奇評(笑)

社会に出るあなたに伝えたい なぜ、読解力が必要なのか?

今日紹介する本は、池上彰さんの「社会に出るあなたに伝えたい なぜ、読解力が必要なのか?」。

なぜ必要かというのは言うまでもないと思うのですが、そこはおいといて、数学が得意な人は読解力も高いという話が出てきます。その理由について、

算数や数学が、具体的なものごとと式や図形などに抽象化あるいは一般化されたものごととを行き来しながら考える学問であり、論理的に思考し議論するための力だから
(p.70)

個人的によく使うネタですが、日本語を使って論理的思考をするのが現代国語、数式を使って論理的思考をするのが数学、と考えることができます。読解の根本には論理的思考があります。だから論理的思考力を高めることで数学も国語も得意になる、数学や国語を勉強すると相互に影響しあう、という仕組みなのでしょう。

読解力というのは、読み解く力です。例えば「今日はいい天気だ。」という文を考えてみます。ここに書かれているのは、「今日」という時点において「天気」が「いい」という状態であるということです。読む人がそのことを認識できたら読解は成功です。簡単な話のように思えるかもしれませんが、これができない人もいるのです。

さて、読解にはもう一つ上のレベルがあります。それを書いた(言った)人は、何を伝えたくてそう書いたのか、そこまで考えるのです。「今日はいい天気だ。」と書いた人が必ずしも今日の天気がいいことを伝えたいとは限りません。出会いがしらの挨拶で「今日はいい天気ですね」と言われたら、それは天気を知らせたいのではなくて、挨拶をしたいのです。そこまで理解するというのが高レベルの読解です。

しかし、一般的に、高レベルの読解をするためには、その前段階である文字通りの解釈ができないと話になりません。そこはロジカルが支配している白黒はっきりした世界です。入試問題に出るのはこの読解問題です。相手がどう思っているかというのは流石に断言できないので、問題にはできません。

数学に関しては、慶應大学の話が面白いです。慶應経済は昔、入試科目に数学が含まれていましたが、1990年度前半に数学を受験しなくても入学できる試験方式が追加されました。その結果は、

途端に偏差値は跳ね上がり、慶應の法学部と並び、さらには早稲田の看板学部である政治経済学部を抜きました。
(p.71)

偏差値が上がったのは、数学を勉強しない文系の受験生が殺到したからでしょう。偏差値は学力や能力の指標としてよく使われています。世間一般は、偏差値が高いイコール賢い、というような印象を持っているかもしれません。ところが、

数学を受けずに入ってきた学生たちが入学後の講義についていけないという事態が発生してしまい
(p.71)

偏差値が高い人のはずなのに、講義についていけないという話です。もっと興味深いのが、

数学を勉強せずに入った学生は、部活動の話し合いなどでも「ものごとを論理的に考えられない」ことが周囲にも見てとれるのだと、慶大生から聞きました。
(p.73)

これは数学が論理的思考力を鍛えている証拠と考えていいかもしれません。

ビートたけしさん「(監督業では本名の「北野武」さん)も、「俺の映画づくりには、因数分解の勉強を生かしているんだ」と言われています。
(p.77)

有名な逸話です。因数分解そのものではなく、因数分解的な思考が役に立つということなのです。

(つづく)


社会に出るあなたに伝えたい なぜ、読解力が必要なのか?
講談社+α新書
池上 彰 著
ISBN: 978-4065201169