Phinlodaのいつか読んだ本

実際に読んでみた本の寸評・奇評(笑)

未来のカタチ: 新しい日本と日本人の選択

今日の本は「未来のカタチ: 新しい日本と日本人の選択」。

ざっくり言えば、このままでは日本がエラいことになるよー、的な内容です。カタチという言葉をカタカナ表記した意図が伝わるかどうか。個人的にはどうも理解できた気がしませんが。

どういうことになるかというと、例えば、

日本語をあまり必要としない労働に大量の移民が従事するようになり、定住人口となって増加していけば、後に日本社会は極めて深刻な問題に直面する可能性があります。
(p.20)

ロシアから大量に移民がやってきて住民投票でロシアの領土になる的な話の方が。ありそうな気がしてきました。

それはそうとして、この本にはやや的外れな内容が案外あります。まず気になったのはコレ。

2019年11月、2020(令和2)年度からの大学入試への民間の英語検定の導入が中止になった際、「新制度に備えて準備してきたのに」とか、「無駄な時間を費やした」というような受験生や識者と称される方々のコメントを耳にしましたが、これは実におかしな話です。
(p.34)

おかしいというのはある意味そうかもしれませんが、著者の楡周平さんは実際に新制度に対応するための準備をしたことがあるのでしょうか?

多分、経験した人なら分かると思うのですが、この制度、検定試験を申し込むIDを申請するだけでも恐ろしい手間がかかったのです。新型コロナの給付金どころの騒ぎではありません。どこから試されてるんだ、みたいな。

英語を学習するのは、英語という言語を習得するのが目的であって、
(p.34)

無駄な時間というのはそういう話ではないと思います。英検の場合、対応する勉強ではなく手続きの手間が尋常ではないというのが大問題だったのです。だから、ここの著者の主張は99%的外れだと思います。

新制度に対する準備として大きな問題になったのは、外部委託の話よりも記述式問題が出る件だったと思います。マークシートではなく解答を言葉で書く必要がある、そのための対策が必要だ、という話です。これはこれで「おかしい」のですが。

英語を用いる比重が高まるにつれ、日本語を学ぶ必要性が次第に薄れ、日本語を学ぶことが煩わしくなる。分からないことは「クグればいい」というのと同様、全て英語でいいじゃないかという風潮に繋がるとしたら――。
(p.39)

多分繋がらないですね。これは杞憂か詭弁か妄想だと思います。というのは、日本語はヤメて全部英語にしろという議論は福沢諭吉さんが学問をススメてくれた頃から活発に行われていて、それダメという決着が付いていますから。

ま、一言でいえば、日本語には日本語の圧倒的な良さがあります。だから最近は外国人が日本語を学んでくれることもあります。

もう一つ気になった話を。東京は子供を最も生みにくい都道府県だ、という主張が出てきます。おおむね賛同したいですが、中学受験のあたりから、現実とは違う話が出てきます。

中高一貫校なら、最低でも六年間、ほぼ同額の授業料を支払わなければなりませんし、高校進学時には入学金がかかります。
 いかに東京都民の平均賃金が全国一、他道府県に比べて群を抜いて高いとはいえ、38万400円、年収にして460万円強です。この年代の子供を持つ親は、住宅ローンを抱えている方も多いはずですから、親一人の収入だけでは教育費を捻出するのはまず不可能です。
(p.51)

中高一貫ということは私立の学校に行くことを想定していると思われますが、東京都には私学助成金(私立高等学校等授業料軽減助成金)という制度があり、条件を満たせば私立高校に進学する子供がいる家庭には年間数十万円の補助金が出ます。

国の就学支援金と合わせて、都内私立高校平均授業料相当(年額469,000円、通信制課程は年額258,000円)を上限に助成
(私立高等学校等 学費負担軽減支援|東京都、 https://www.metro.tokyo.lg.jp/tosei/hodohappyo/press/2022/05/25/22.html )

この助成金の対象となるラインは「世帯年収目安約910万円」ですから、年収460万円なら確実に対象になります。もちろん、高校に通うには授業料以外もいろいろ必要になりますが、かなりの支援になることは事実でしょう。ちなみに住民税非課税の世帯は、さらに支援金が出ます。最低6年間ではなく、3年間頑張れば高校の3年間の授業料はかなり軽減され、平均授業料以下なら無償になるのです。

実際に子供を私立高校に行かせた人なら知っている(はずの)制度なのですが、この情報を伏せて「生みにくい」と指摘するのは不公平な気がします。ガチで知らなかったのなら調査不足です。私学助成金の公式サイトは「高校 授業料 援助」でググれば最初のページに出てくるのです。(ちなみにこの本は2020年発行です)。

もうちょっと日本人は検索力を高めた方がいい、と言う話なのかもしれません。


未来のカタチ: 新しい日本と日本人の選択
楡 周平 著
小学館新書
ISBN: 978-4098253791