Phinlodaのいつか読んだ本

実際に読んでみた本の寸評・奇評(笑)

最高の質問力

今日の本は「最高の質問力」。

著者の鎌田さんはニュース記者としての経験が豊富です。取材やインタビューでいかに情報を聞き出すか、聞いたネタをどうやって視聴者に分かりやすく伝えるか、この2点について分かりやすく踏み込んだ本になっています。

うまく質問して情報を引き出すためには、信頼を得ることが重要とのこと。まず、そのためのノウハウがいろいろ出てきます。

親しくなるとお互いくだけた言葉遣いになっていきますが、この順番を逆にし、意識的にくだけた言葉遣いをして親しくなる
(p.26)

言葉遣いで親近感を演出するというのは、テクニックとしては最高難度だと思います。

相手がどんな対応をするかわからないときは小手先の工夫よりも真っ正直に質問したほうが、うまくいく。
(p.29)

これなら何とかなりそうですが、このあたりのノウハウは経験則なんでしょうね。

記者会見で何度も同じ質問が出てくる、というのは以前から気になっていたのですが、

嫌がられる場合もありますが、同じ質問を繰り返すのは大事です。ただし、それには勇気がいります。「何回同じことを聞くんですか」と言われることもあります。
(p70)

個人的には何度も同じ質問をするのはウザい以外の印象はないです。期待した答が出てこないのなら「先程は~と言っていたがそれは具体的にはどうなのか」のように掘り下げて質問すればいいでしょう。私が聞かれた側なら、同じ質問をされたら何万回でも同じ返答をしますね。

どうやって分かりやすく表現するか、という点に関しては、

研修では「原稿は中学生でもわかるように書きなさい」と教わるのですが、これがなかなか難しい。
(p.126)

ニュースは万人に伝わることを想定した表現にしないといけないので、そこが難しいのでしょう。テクニカルライターならある程度は読者も専門知識を持っている前提にできるので、割と書きやすいと思います。

次のメソッドはとても共感できます。

「文章がうまくなるためには誰か気に入った作家の文章を写せ」といわれますが、それを実行した
(p.128)

鎌田さんは村上春樹さんの作品を写したそうです。文章を写さなくても、いい文章を読んだ後に何か書くと、文体が引っ張られる感じが実感できると思います。

ちょっと気になったのは、マスコミを過大評価しているところです。

新聞は信頼していいメディアだと思います。実体験からいうのですが、プロの記者が丹念に取材して自ら集めている情報なので正確だからです。もちろん新聞が誤報を流す場合もありますが、必ず訂正をしています。
(p.154)

訂正までに長い時間がかかることもあるし、訂正はどこに書いてあるか分からないような目立たない所にありがちだという事実も面白くありません。

ただ、朝日新聞のサンゴ事件のように意図的に fake news を流すのは論外として、事実の一部だけを切り取ることで、書いてあることは事実だが読む人には確実に誤解するように誘導する、これは日常茶飯事で、マスコミはそこが怖いです。意図的に部分的に隠す。

ちょうどそれが分かるような話がこの本に出てきます。NTTがドコモの株を全て買い取って完全子会社する時の話です。

鎌田さんはこの時、一般株主がいない方が意思決定がスピーディになる、だから完全子会社がいい、という説明をしたらしいですが、恵俊彰さんは次のように説明したといいます。

「一般の株主が受け取っている配当金はだいたい三八〇〇億円くらいです。完全子会社になればこれを払わなくて済むので、携帯電話料金の値下げに充てられるというメリットがありますよね」
 どうでしょう。恵さんの説明のほうがわかりやすくないですか。
(p.176)

確かに分かりやすい。視聴者はなるほど、そうだと思うでしょうね。配当金が浮くから値下げが可能になる、これは論理としてはスッキリしています。

ちなみに、買収には4兆円ほど必要なのですが、その話はなぜ隠したのでしょうか? 取材したのなら当然知っているはずです。

もちろん、それも教えてしまうと、あれ? 値下げのメリットはないんじゃないの、と読者が気が付いてしまうからですね。浮いた配当金で買収のコストを回収するだけでもかなりの時間が必要です。

そこは伏せておきたいので、事実を一部だけ伝える。マスコミはこの主の印象操作を日常的にやっている。鎌田さん、いつもの癖がサラっと出てしまったのでしょう。

今日の一言はこれで。

思い付いたアイデアはすぐにメモしたほうがいい
(p.134)

忘れるときは一瞬なのです。


最高の質問力
鎌田 靖 著
PHP新書
ISBN: 978-4569848297