Phinlodaのいつか読んだ本

実際に読んでみた本の寸評・奇評(笑)

日本アニメ史

今日の本は津堅信之さんの「日本アニメ史」。

手塚治虫さんよりも前のアニメ黎明期から、最近の作品「君の名は。」「進撃の巨人」「鬼滅の刃」あたりまで、広い範囲をカバーしている。数多くのアニメ作品の名前が出てくるが、網羅性はそれほどではない。To HeartAir のようなゲーム原作の作品や、くりいむレモンのようなアダルトアニメについて殆ど触れられていないのは残念だ。この本が有名なアニメを網羅していると勘違いすると危険なので注意が必要である。

ゲーム原作系については、

ゲームもアニメの近接領域として重要な存在で、九〇年代末からゲーム原作のアニメが増え始めた。
(p.246)

この程度の記述しかない。

この本の特徴は監督に注目して作品を分析しているところにある。手塚治虫さん、宮崎駿さんといった巨匠の作品が紹介されている。ただ、内容としては専門の評論誌ほどではなく、どちらかというと歴史の教科書的な感じだ。深く掘り下げていない分、あまり面白くないと感じるかもしれない。

日本のアニメには宗教の制約が少ないという特徴がある、という指摘がある。魔法使いサリーの解説。

特に魔法を使う女性、それは時に魔女であるため、伝統的なキリスト教文化圏では忌避される。
(p.81)

宗教的な制約が弱いために作ることができたアニメ、という解釈が面白い。もちろんこの特徴はアニメに限った話ではなく、「聖☆おにいさん」のようなコミック(アニメ化されている)も同様である。

鉄腕アトムはアニメーションとしては動きが少なすぎるという批判があった、ということが紹介されている。それにもかかわらず鉄腕アトムは作品としては大成功している。

しかし、視聴率に反映されたように、観客は受け入れた。
(p.106)

個人的には、日本人がアトム的アニメを受け入れる背景としては、紙芝居の存在が大きいと思う。アニメは実写映画ではない。あえて動きを止めて描写することは、観客の視点を誘導する点で大きな意味がある。最近のCGを多用したアニメは動かし過ぎて邪魔な感じがすることもある。

日常系アニメに関しては、「うる星やつら」が話題に出てくるのだが、

二〇〇〇年代以降に量産される、やはり学園を舞台に主人公の日常を描いた「日常系」アニメの源流は、この八〇年代にあると見るべきだが、『うる星』を日常系のルーツとする向きはあまりない。
(p.171)

あんな日常があってたまるか(笑)。

日常を描いたアニメといえば「サザエさん」がルーツのような気がしないでもないが、この本の「日常系」は学園生活の描写をベースにした作品を指しているようだ。例えば「けいおん!」が典型的な作品となるだろう。

『うる星』は高校がメインステージではあるが宇宙人や妖怪や怪力女【謎】が出てくる非日常系で、同時期のアニメ「きまぐれオレンジ☆ロード」も超能力とか出てくるし、「けいおん!」のように普通の人しか出てこない日常系というのはやはり2000年代の産物なのだろう(「けいおん!」は2009年)。「けいおん!」がヒットした時もスタッフが、こんなに何もしなくてもいいのか、と驚いたというエピソードがあったと思う。

うる星やつら」は2022年秋から新たにアニメ化した放送が始まっている。こちらは原作をかなり忠実にアニメ化しており、当時の時代背景をベースに描かれているのが面白い。昭和の頃に「三丁目の夕日」を見ていた人が感じたノスタルジアが、令和の今「うる星やつら」を見ることで再体験できる。空き地に土管が積んである光景なんて、今時まず有り得ないだろう。


日本アニメ史-手塚治虫宮崎駿庵野秀明新海誠らの100年
津堅 信之 著
中公新書 2694
ISBN: 978-4121026941