このブログでは本を読んで気に入った箇所を引用して紹介しているのだが、この本は一読した時点で付箋を貼った箇所が一つもなかった。特に気に入った箇所がなかったことになる。しかし全部読んだ時点でほんわかした気持ちが残っているのだ。
全体で一つになっている、ということだろうか。あるいは、出てくるシーンが経験したことのあるようなエピソードばかりで、すんなり頭に入りすぎたのかもしれない。
4つの短編が収録されている。いずれもピアノが絡んでくる話。タイトルの「サマータイム」はジャズのスタンダードナンバー。Wikipedia によれば 2600を超えるカヴァーが存在するそうだ。
強引にいくつか面白かったところを紹介してみる。
「広一くんは、大人と対等に話す言葉を知っているようだね」
(p.113)
広一はメインキャラの一人、その広一の母親と付き合っている男の種田の言葉。二人の会話のかみ合わなさは面白い。広一が種田の助けを借りて自転車の練習をするシーンが出てくるが、この時、広一はこんなことを考える。
えらそうに見下しやがって。どうせ、自分は乗れるのに、と思ってるんだろう。
(p.140)
広一は片腕なので自転車にうまく乗れない。このあたりの見下されているという感覚はよく分からない。分かる人には分かるのかもしれない。
作品「ホワイト・ピアノ」に出てくる亜紀も面白い。
クラスメートの社長令嬢は結婚するまでに、十二人の男と付き合うんだときっちり計画をたてている。
(p.162)
鎌倉殿か。アレは13人か。相手になった12人が相手も遊びのつもりでなければ結構な悲劇だ。選ぶ方も悪いという発想はあるかもしれないが。
この話に出てくるピアノ、本当にあったら買いたいものだ。金も置く場所もないのだが、どんなピアノかというと幽霊が憑いていて、
古臭い白いドレス着た金髪の女の子がね、モーツァルトのソナタを、いつも同じフレーズで、つっかえるの。そこばっか練習して泣くの
(p.169)
七不思議の一つみたいな感じ?
今日の一言はこれで。
「あんた、山で大きな木の下じきになって死ぬのと、海で溺れ死ぬのとどっちがいい?」
(p.10)
「痛い」と「苦しい」の選択か。個人的には海かな。