Phinlodaのいつか読んだ本

実際に読んでみた本の寸評・奇評(笑)

人間以前 (ディック短篇傑作選)

今日の本はフィリップ・K・ディックさんの「人間以前」です。

12の短編が収録されています。先日の雑記で「人間以前」のネタをちょっと紹介しましたが、数学ができないと駄目というのは厳しいハードルですよね。

個人的に一番気に入った作品は「妖精の王」ですが、これはSFではなくファンタジーらしいです。サイエンスとファンタジーの区別は最近はかなり難しくなっているようですが。科学と魔法とか。

「宇宙の死者」は、死者が死んだ後の世界をザワザワさせるという、現実にありそうにない話…だと思いたいですが、それはおいといて、このストーリーのベースになっているのは情報操作。テレビや電話で一方的に情報を送り込んで選挙活動、というのは現代社会でも普通に行われている手法です。

2022年現在、インターネットがあるので話がちょっとややこしくなっていますが、この小説が書かれたのは1964年ですからそういうややこしいインフラはありません。

「フォスター、おまえはもう死んでるぞ」では、核戦争の恐怖を利用して核シェルターを売りつけるというビジネスモデルが成立しています。今も核戦争の恐怖はあるはずなのですが、シェルターの普及率はいまいちのようですね。50セントで逃げ込むことができる公共シェルターというのが面白いです。金を取るんですね。

そういえば、最近ストーリー性のある夢をよく見るので、朝、いろいろ疲れるのですが、

夢というものは、何千年もの昔にさかのぼる人類の集合的無意識の一部ではないかという、新しい理論もあるのよ……つまり、夢のなかであなたはそれと接触するわけね。
(p.512)

「シビュラの目」に出てくるセリフです。他の人間の経験が夢に影響しているとすれば、夢はちゃんとメモしておかないと勿体ないですね。

今日の一言は「妖精の王」から、

与えるだけで、なんのお返しも期待しない人はめったにいません
(p.53)


人間以前 (ディック短篇傑作選)
フィリップ・K・ディック
大森望 編集, 翻訳
浅倉久志 翻訳
若島正 翻訳
早川書房
ISBN: 978-4150119812