Phinlodaのいつか読んだ本

実際に読んでみた本の寸評・奇評(笑)

あと少し、もう少し

今日の本は瀬尾まいこさんの「あと少し、もう少し」。裏表紙には「傑作青春小説」と書いてあります。

舞台は市野中学の陸上部。目標は駅伝の県大会出場です。しかし走者が揃わない。陸上部員だけでは足りないのでいろんな部から走れる人を集めるところからです。スキルよりも重要なのがやる気なのです。

中学校でやることに必要なのは、能力じゃない。嘘みたいだけど、努力だ。やる気や根気やチームワークや地道な練習が、勝敗を決める。
(p.7)

ところが陸上に詳しい先生が異動になって、陸上部の顧問は美術の上原先生になってしまいます。この上原先生、陸上のことは全然分かりません。前途多難なのです。果たして上原先生は好きで顧問をしているのか。

誰だってやりたいことだけしてるわけじゃないじゃん。
(p.32)

そういうときは、「やりたいと思う」「やらない」というのがポジティブな二択なのですが、実際はやりたくないけどやる、という妥協になる場合が殆どです。

この上原先生がぼーっと生きているようで意外と頑張ります。まず、不良っぽい太田くんが試合直前で逃げ出すのですが、戻ってこいと説得します。

中学校っていくら失敗してもいい場所なんだって。人間関係でも勉強でもなんだって好きなだけ失敗したらいいって。
(p.122)

全然乗り気でなかった太田が何となくうまいこと言いくるめられて走る気になってしまうのは面白いです。

4区を走る渡部はサックス奏者です。渡部は最初から走る気がないのですが、こんなことを言って説得します。

本当の芸術っていうのは、芸術の中だけで生まれるんじゃないんだよ。音だけに囲まれた中で生まれた音楽は誰の心も討たない。違うかな?
(p.187)

違うような気がしないでもないですが…。吹奏楽部の顧問の澤田先生はこんなことを言います。

音楽でもなんでも芸術っていうのは、見えている部分だけで創り出すものじゃないのよ
(p.206)

駅伝も単に走るスキルだけではなく、選手のコミュニケーションがほにゃらら、みたいな感じの小説なのです。それぞれのキャラが際立っていて、なかなか楽しいです。ただ、ちょっと皆おとなしいというか、ラノベでよく出てくるような過激なキャラがいないのは物足りないかもしれません。


あと少し、もう少し
瀬尾 まいこ 著
新潮文庫
ISBN: 978-4101297736