Phinlodaのいつか読んだ本

実際に読んでみた本の寸評・奇評(笑)

文豪山怪奇譚 山の怪談名作選

今日の本は、「文豪山怪奇譚」。

山に関係する怪談などが集められています。Amazon レビューではこの人も文豪なのか…という意見もあるようですが、宮沢賢治さん、泉鏡花さん、太宰治さんあたりは文豪でいいと思います。最後に出てくる柳田國男さんの資料もなかなかいい感じです。

岡本綺堂さんの「くろん坊」は、山男との約束を破った男が呪われる話。

娘が年頃になったらば、おまえを婿にしてやるから、そのつもりで働いてくれ。
(p.42)

この種の約束を破って呪われる話は日本全国どころか世界中にありそうな気がします。人間が実社会で約束を破るものだから、それを暗に表現したい人も大勢いるという証拠なのでしょう。

本堂平四郎さんの「秋葉長光」は名刀の話。夜に登ったら誰も生きて帰った者がいないという山を荒川卓馬という豪傑が超えようとします。怪異の嵐の中で気配を感じて何かを切ったら静かになった。後で見に行くと、

何を斬ったか、硬き物は何なりしかと見廻せば、鼻のように突き出た岩の先端を見事に斬り落としてあった。
(p.68)

石を斬るというのは鬼滅の刃にも出てきます。古くは子連れ狼の拝一刀とか、円月殺法眠狂四郎も何か石を切っていたような気がしますが、実際に日本刀で石とか岩を斬った例はあるのか、というのはちょっと興味があります。

太宰治さんの「魚服記」は、人間が蛇や魚になってしまう系の怪異話です。これも至るところで伝説になっていそうなパターンです。作中に出ている三郎と八郎の話は、弟の八郎がやまべを食べて大蛇になるのですが、

兄の三郎がまだ山からかえらぬうちに、其のさかなをまず一匹焼いて食べた。食ってみるとおいしかった。二匹三匹とたべてもやめられないで、とうとうみんな食ってしまった。そうするとのどが乾いて乾いてたまらなくななった。井戸の水をすっかりのんで了って、村はずれの川端へ走って行って、又水をのんだ。のんでるうちに体中にぶつぶつと鱗が噴き出た。三郎があとからかけつけた時には、八郎はおそろしい大蛇になって川を泳いでいた。
(p.165)

言い伝えなので科学的に検証する意味はありませんが、注目したいのは、まず魚を大量に食べたこと、その後水を大量に飲んだこと、体から鱗が「ぶつぶつ」と出てくること、このあたりが注目ポイントだと思います。魚を食べ過ぎるとかかる病気があるとか、鱗のように皮膚に何か出来る現象があるとか。何か実話を示唆するようなヒントが隠れているような気がするのですが。

ただ、この作品で注目すべきはそこではなく、魚になってしまったスワの描写。

大蛇になってしまったのだと思った。うれしいな、もう小屋に帰れないのだ。
(p.171)

これだから太宰は…


文豪山怪奇譚 山の怪談名作選
東 雅夫 著
ヤマケイ文庫
ISBN: 978-4635049252