Phinlodaのいつか読んだ本

実際に読んでみた本の寸評・奇評(笑)

数学的決断の技術

今日の本は小島寛之さんの「数学的決断の技術」。確率・推論を使って正しく判断する方法論をたくさん紹介している。

この本を読んでみた時に真っ先に思い浮かんだのは Yahoo!知恵袋の大学受験カテのFAQだ。「偏差値はあてになりますか」、あるいは「模試の判定はあてになりますか」という質問である。

「判定」というのは模試の結果に付くA~Eの評価のことである。例えばB判定だったが合格できるか、という話。しかし、模試の成績通知、あるいは受験時の注意書きには判定の説明が書いてある。例えば、A判定は80%以上の合格率、のような解説があるのだ。

ここでよくある誤解が、80%というのがその人の合格率だというものである。模試に出てくるA判定80%というのは、A判定となった人の80%が合格するという推測であって、A判定になった人が全員80%の確率で合格するという意味ではない。模試と本番は問題の傾向が違うから、模試で高得点を取れても本番では失敗する人もいるのだ。

例えば、最近はよく当たる天気予報。信用できるのか。

天気予報や経済予測は、同一条件での追実験が不可能であり、再現性をもっていない。したがって、「当たっているから正しいのだろう」という自己循環的な評価しかできないのである。この場合、「いつまでたっても、法則は経験則の域を出ず、いつ間違いだと判明するか予断を許さない」ということになる。
(p.45)

統計的確率を使うときに、データが正しいかどうかが重要だという話だ。確かに「歴史上記録のない大雨」をどうやって予測するのか、というのは謎だ。

同じく知恵袋 FAQ に、大学に行く価値があるかという質問がある。これは機会損失の話題が出てくる所で思い出した。

彼らが考え落としているのは、「もしも、高卒で働いたら、4年間でいくらの収入があったか」ということだ。仮に250万円の年収が得られるとするなら、大学に通うことの4年分のコストは、学費+1000万円ということになる。
(p.95)

この4年間という時間の解釈が難しい。もし大卒と高卒の入社時の年収が同じで、昇給も等しいとすれば、4年間の機会損失の収入コストは、定年前の4年間の年収と等しくなる。学費+4000万円ということだ。実際は、大卒の初任給は高く設定されているため、この理屈は成立しない。しかし、4年間のコストを学費だけで見積もってはいけない、という所は間違いない。

地球温暖化に関して、筆者は「温暖化は嘘」という主張や、クライメイト・ゲート事件の話題も紹介している。小島さんとしては、温暖化の問題は確率的なところに重点を置いているようだ。

地球の未来の気象を確実に予言できる理論は存在しない。したがって、温暖化の是非がはっきりしない中での、人類のとるべき行動に関する判断は、『不確実性の下での行動選択』となってしまう。
(p.101)

論証に関しては、推論の原理をシンプルに紹介している。

「論理学的な推論」というのは、基本的には「AならばB」という形式の論理文をつないでいくことだ。
(p.144)

突き詰めていけば、確かにそうなるのだが、もちろん古典的な風桶理論も紹介されている。デフォルト論理の話題も出てくる。

「デフォルト論理」というのは、『現在の知識と矛盾しない限り、受け入れる』という推論の方法だ。
(p.161)

最後に、著者の小島さんがあとがきで宿題を出している。この本には解答は出ていない。その宿題とはこうだ。

「間違った選択などありえないのではないか。なぜなら選択が正しいかどうかを決めるのも、まさにあなたの行動なのだから」
(p.234)

個人的には、間違った選択があり得ないのなら「選択が正しいかどうかを決める」ことはできない、と言いたい。


数学的決断の技術
やさしい確率で「たった一つ」の正解を導く方法
小島寛之
朝日新書
ISBN: 978-4022735423