今日の本は辻村深月さんの「スロウハイツの神様」。文庫本は上下巻になっています。
物騒なことに、いきなり集団自殺の話から入ります。
チヨダ・コーキの小説のせいで人が死んだ
(p.9)
漫画やアニメを真似してリアルに事件が起こったらしい、という話は過去にもありますが、どの程度本当に関係しているのかは未知数です。世論は漫画やアニメのせいにしたがりますが、ヘンな人はどんな理由でもヘンな行動に走るものです。集団心理がここに加わると、
一つの例外ができると、人間は次を簡単に許し、既存の常識は際限なく崩れ出すものだ。
(p.151)
異常な考え方も正常になってしまうものです。
この前振りが終わった後にすぐに始まる本編の最初のイベントは、主人公の赤羽環の母親が事故で死ぬというものです。環は携帯電話をサイレントモードにしていて、事故の連絡に気付きません。
私は何度か間に合わなかった経験をしたので、何となく気持ちが分かりますね。
赤羽環は、今、絶賛売り出し中の若手女性脚本家だ。
(p.42)
この環とチヨダ・コーキこと千代田公輝が中心になってストーリーが回ります。舞台はスロウハイツという名前のボロボロのアパート。
西武池袋線沿い、最寄り駅は椎名町。昔は旅館だった建物なんだって。
(p.75)
昔、椎名町にいたので、雰囲気が分かります。といいつつ、最近行ったら駅前の雰囲気がかなり変わっていました。このアパートに、最初の事件の小説を書いた公輝と環、その他数名のクリエイターが集まり、いろいろある【謎】という話です。椎名町のアパートといえば有名なのが「ときわ荘」。ということで神様というのはもちろん漫画の神様、手塚治虫さんをイメージしているようです。
彼の着ているTシャツに描かれている手塚治虫の漫画のキャラクターの名前が思い出せない。
(p.142)
ヒョウタンツギ程度なら誰でも知っているから、「おむかえでごんす」が決めゼリフのアレかな。ちなみにこのキャラの名前はスパイダーです。知ってました?
こういうサブカルチャーネタがさりげなく出てくるので、そっち系の人には感情移入しやすいかもです。知らない人にはわけがわからないかもです。
Tシャツに松本零士の『スタンレーの魔女』の日本軍爆撃機が描かれていた
(p.134)
スタンレーの魔女というと個人的にはメーテルみたいな女性のイメージなのですが。爆撃機はどの話も似たような感じ。ちなみに、確かコレは山脈を爆撃機が越えていく話ですよね。違っていたらすみません。結末は衝撃的です。
誰かに似ているな、と思って、少し考えて思い当たった。小さい頃テレビで見ていた『楽しいムーミン一家』。
(p.106)
楽しい、という言葉が面白いです。日本のアニメでいえばサザエさんみたいな感じでしょうか。ていうか今でもムーミンは放送されているのでしょうか。日本人の「文化的暗黙の了解」を理解することは案外難しいです。
この小説、キャラが立っているのは誰かな…、と考えてみると全員立っているので困りますが、個人的には冷酷な編集の黒木さんを推します。クールというかドライぶりは超越しています。スーパードライ。
『ダメなヤツもいてこその組織だから』
(p.248)
1割のダメ社員がいないと他の社員がストレスフルになってうまく回らない、という話は聞いたことがあります。
とりあえず上巻で区切って今日のいい言葉。
始める人ってのはもうとっくに始めてる。
(p.91)
狩野【誰?】の言葉です。ネットでは青少年の「~になれますか」的な質問が結構ありますが、本気でミュージシャンになりたいという人は幼少時からレッスンを始めていて YouTube に自分の演奏を公開しているし、ゲームプログラマーになりたい人はゲームソフトを作って発表しているものです。なれますか…なんて質問している時点で負けているのです。
(つづく)