Phinlodaのいつか読んだ本

実際に読んでみた本の寸評・奇評(笑)

水底フェスタ

今日の本は辻村深月さんの「水底フェスタ」。

舞台は睦ッ代という村。閉鎖的でウチとソトの間に明確な境界線を引く、昔ながらの村のイメージ。今でもこういう村が日本中にあるのだろう。この村をどう思うかという質問に対して、

空が青いのと、家ん中が暗いのの差がすげえ
(p.218)

これは不良の達哉の言葉。いい奴なのか悪い奴なのか最後までよく分からなかったが、いきなり暴力に出る性格だから普通に考えて「いい奴」ではないのだ。

主人公は弘海。優等生だが何となく優柔不断なところがある。ヒロインの由貴美はこの村に復讐のためにやって来たという。最初から最後までドロドロした感じの隠蔽体質満載の閉鎖的なコミュニティが何となく親近感があるというか近親憎悪みたいな感じで迫ってくる。

身近だった彼女の存在によって浮き彫りになってしまう自分自身の矮小さを持て余し、
(p.106)

こういう「鏡に写った自分」を見るような感じが怖いといえば怖い。ただ、世界観は個人的に共有できるのだが、登場人物にどうも共感できない。私の知っているムラというのは、もっとドロドロした明るさがあるのだ。


水底フェスタ
辻村 深月 著
文春文庫
ISBN: 978-4167901578