Phinlodaのいつか読んだ本

実際に読んでみた本の寸評・奇評(笑)

富岳 世界4冠スパコンが日本を救う

今日の本は「富岳 世界4冠スパコンが日本を救う」。

世界トップのスパコン「富岳」に関するエピソードや開発秘話が出てくる。途中、かなり技術的な話や比較表がたくさん出てくるので、技術者が読めばとても面白いのではないかと思う。ガチの技術者なら既に知っているようなことなのかもしれないが。

スパコンといえば、事業仕分けの時の蓮舫議員の質問が有名だが、少し踏み込んだ解説がある。

もし1位を取れなかったときに、このプロジェクトの意義がどこにあるのか、それだけ予算をつぎ込む価値があるのかというのを聞こうとした
(p.26)

疑問としては真っ当だ。ただ、この後にやりとりが紹介されていて、著者は

このようになんとももどかしく、質問に明確に答えていないやり取りが何度も繰り返された。
(p.27)

と指摘しているのだが、私が見た感じでは文科省の回答はかなり本質的な部分、つまり「10ペタクラスに早く到達する」ことの重要性を明確に指摘しているように思う。要するに10ペタクラスに到達するのが第一目標で1位というのはその副賞のようなもの、ただしそれには予算が必要である、ということを文科省がしっかり説明していればよかったのではないか。

理研の平尾公彦氏が次のように述べている。

京は開発の過程で1位か2位かが注目を集めましたが、今になって私が考えることは、常にトップグループにいなければダメだということです。トップグループにいるということは、言い換えると1位を狙える位置にいるということです。トップグループと2番手グループでは全く状況が違います。
(p.65)

これは多くのシーンで適用できるパターンだろう。やはり金メダルを狙うこと自体が重要で、特別な意味があるのだ。

富岳の前身として開発された TSUBAME シリーズには、GPUの話も出てくる。

松岡教授は初期のTSUBAMEを開発していた2003年に、早くもGPUに目を付けていた。
(p.35)

ちなみに、家庭用スパコンと言われた PS3 は 2006年の発売だ。松岡氏はインタビューで、富岳の開発プロジェクトで最も重視したことを、

アプリケーションファーストの設計思想を貫くこと
(p.99)

と述べている。また、次のように述べて国家プロジェクトの重要性を指摘する。

まず富士通が素晴らしいプロセッサーを作ったことをみなさんに分かっていただきたい。なぜ実現できたのかと言えば、国プロ(国家プロジェクト)として取り組んだからです。
(p.104)

この本は最後にちょっとだけ量子コンピューターの話が出てくる。これも国家プロジェクトでやるべきだ、という主張が裏にあるのかもしれない。


富岳 世界4冠スパコンが日本を救う 圧倒的1位に輝いた国産技術の神髄
日経クロステック編集 (著)
ISBN: 978-4296108985