Phinlodaのいつか読んだ本

実際に読んでみた本の寸評・奇評(笑)

一塊の土

今日は本を読まなかったのですが、何故かこれを読んだので紹介しておきます。芥川龍之介の「一塊の土」です。

主な登場人物は、お住とその息子の嫁のお民。その子の広次です。話はお住の息子の仁太郎が死んだところから始まります。お民は家を出て行こうとしますが、お住が引き止めたため、三人で生活していくことになります。お住の目論見はお民に婿をもらって家を継がせようというものでしたが、お民は婿を取る気がありません。そして働いて働いて「稼ぎ病」といわれる程に働きます。そしていつの間にか、

お民はもう「稼ぎ病」に夜も日も明けない若後家ではなかつた。況や村の若衆などの「若い小母さん」ではなほ更なかつた。その代りに嫁の手本だつた。今の世の貞女の鑑だつた。

と言われるまでになります。お住はそれを自慢に思うどころか、

お前のお母さんと云ふ人はな、外でばつか働くせえに、人前は偉く好いけんどな、心はうんと悪な人だわ。

と非難するのです。

ところがお民は流行した腸チブスにかかって死んでしまいます。お民は、お住と孫が十分に暮らしていけるだけのお金を残してくれました。お住は葬式の後、残された自分を情けない人間だと感じます。

彼等親子は三人とも悉く情ない人間だつた。が、その中にたつた一人生恥を曝した彼女自身は最も情ない人間だつた。

三人というのはお住と息子の仁太郎、そしてお民のことですが、嫁の手本とまで言われたお民が情けないというのが重要なところです。過労死ラインなどという概念のない時代でひたすら一日中動けなくなるまで働いて、お金を貯めて死んでしまうという人生の情けなさをお民本人は感じていたのでしょうか。小説はお住の視点から描かれているのでお民の心情はあまり見えてきません。楽がしたけりゃ死ねという言葉の後に死んでしまったお民は果たして楽になれたのか。

 

一塊の土、芥川龍之介青空文庫

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