Phinlodaのいつか読んだ本

実際に読んでみた本の寸評・奇評(笑)

地球幼年期の終わり

このブログも4年になるようですが、思ったより長く続いていますね。今日の本は、アーサー・C・クラークさんの名作、「地球幼年期の終わり」です。

超あらすじを紹介すると、地球に宇宙人がやってきて、核戦争による人類の絶滅を回避させて、統治して、進化させて、新人類を回収したらなんと人類は滅亡しました、みたいな話です。

地球人と対話する宇宙人の名前はカレレン。ちなみに宇宙人は〈上主〉と表現します。地球側の交渉役は国連事務総長のストルムグレンです。完全に〈上主〉と人類の板挟みになって残念な役です。どちらかというと〈上主〉は寛大なので、人類に攻撃される役ですね。

絶対的な力を持つ〈上主〉の技術力によって、

昔の標準からすれば、まさにユートピアの時代が訪れている。無知、疾病、貧困、恐怖は事実上姿を消した。戦争の記憶は、暁が追払う悪夢のように、過去に没し去ろうとしていた。
(p.119)

という理想的な世界が実現します。しかしその理想というのが曲者なのです。

「絶縁のテンペスト」というアニメでは、始まりの木という超生命体が出て来て世界中から戦争がなくなってしまう、というシーンがありますが、人間がヒエラルキーの頂点から降ろされると戦争どころではなくなってしまうようです。しかし、人類は、支配された平和で安全な世界よりも、自ら支配権を持つ争いの世界でありたいのです。

また、先日紹介した「呪われた村」のように、この話にも共感覚のような考え方が出てきます。

人間一人一人の心を島と考えていただきたい。四方は海に囲まれている。それぞれの島が孤立しているように見えるのだが、現実にはすべてが根もとの岩盤でつながっていて、そこから生えているだけだ。
(p.288)

各人の心はスタンドアローンで存在しているように見えますが、実は根っこで接続されているわけです。


地球幼年期の終わり【新版】
アーサー・C・クラーク
渡邊 利道 その他
沼沢 洽治 翻訳
創元SF文庫
ISBN: 978-4488611040