Phinlodaのいつか読んだ本

実際に読んでみた本の寸評・奇評(笑)

高い城の男

てなわけで今年最初に紹介する一冊は、フィリップ・K・ディックさんの「高い城の男」。

この本は先日紹介した「メカ・サムライ・エンパイア」が参考にしたという一冊で、第二次世界大戦で日本・ドイツが勝ったという前提のストーリーです。

主人公のロバート・チルダンは美術品を扱う商人。チルダンのセリフや思考の内容は日本批判の精神がベースにあって、しかし日本が支配権を持っているので逆らえずに表向きは従順に振る舞っている、というシナリオなのですが、どうもこの小説を読んでいると、日本批判というより実在するアメリカ批判的な感じがしてしょうがないです。つまり、アメリカを戦勝国日本を使って回りくどく批判しているような。

著者の日本観はかなり偏っているというか、今のようなインターネットが使えない時代の欧米が持っている日本観なのだろうと思いますが、ズレが半端ないところが面白いです。戦争に勝った日本人は、

彼らはイギリス製のボーンチャイナカップでコーヒーを飲み、アメリカ製の銀器で料理を食べ、黒人の音楽を愛聴する。だが、それはうわべだけだ。富と権力を持った強みで、彼らはそれを手に入れたが、どこまでいってもそれは模倣でしかない。
(p.184)

コーヒーを飲むのとジャズを聴くのは戦争に負けた日本人もやっていますが、アメリカ製の銀器というのはないかな。ここで言いたいのは、戦争に勝った日本を批判しているように見えるのは、実は戦争に勝ったアメリカを批判しているのではないか、ということです。

本作で面白いのが「易経」です。重要な判断は占いで決めるのです。日本にそういう慣習はあったかな、と考えてみると多分卑弥呼の時代とか、もう少し最近まではあったかもしれませんが、少なくとも明治からこっちは重大な決断を占いで決めるような慣習はないような気がします。フィリップ・K・ディックさんは何を参考に日本と結びつけたのか謎ですが、もしかすると易経が中国の書物であるという認識がないのかも。

とはいっても、日本はおそらく世界有数の占い好きな国で、易者というのは最近見ませんが、テレビの朝の番組では星占いをやっているし、神社にお参りに行ったら神籤を引くし、またそれを信じたりするので易経のイメージは案外的を射ているのかもしれません。

 

高い城の男
フィリップ・K・ディック
土井宏明(ポジトロン) イラスト
浅倉 久志 翻訳
ハヤカワ文庫 SF 568
ISBN: 978-4150105686