Phinlodaのいつか読んだ本

実際に読んでみた本の寸評・奇評(笑)

天冥の標IX PART1──ヒトであるヒトとないヒトと

今日は天冥の標、Ⅸ。「ヒトであるヒトとないヒトと」。PART1 と PART2 の2冊に別れていますが、とりあえず PART1 の方から。

奇妙なサブタイトルですが、この物語に出てくる人間は、《酸素いらず》や《海の一統》のように電気代謝能力を持っていたり、《恋人たち》のようなアンドロイドだったり、イサリのように硬殻体に改造されたり、いろんなタイプに進化しています。その結果、枝葉に分かれたヒトが、お互い人間じゃないか…と納得できたら話は簡単なんですが、そう簡単には行かないみたいな話です。

今回は次章のフィナーレ、宇宙大戦争の準備段階のシーン。イサリがマヒルを追い詰めるあたりの話です。新政府の大統領のエランカが頑張り、超絶強くなったアクリラは《海の一統》をまとめ直して戦いに備えるのです。PART1 では、《恋人たち》がドタバタします。星連軍という新しい戦力も登場しますが、

星連軍というのは、正式には二惑星天体連合軍、地球・火星・その他の小天体の勢力が条約を結んで設置した軍ですね。
(p.110)

どんどん話がデカくなっていくようです。

《救世群》は体を改造する時点で殆どの人が不妊化されてしまってパニックになっているのですが、そうなった理由が宇宙人カルミアンの勘違い、という発想が面白いです。

カルミアンは支配と繁殖を同列に考える種族だった。
その性質を《救世群》にも適用してしまったんだ。
(p.165)

人間がハチのような種族になってしまったわけです。惑星セレスが恒星間飛行をしている理由は、そこに体を元に戻す情報があるから、というのですが、

ふたご座ミュー星……そこへ送った情報の中に、《救世群》を元の体に戻す見取り図が含まれていたんだな?
(1, p.170)

そこにあるデータを使えば不妊化する前の体に戻ることができます。ただ、わざわざ冷凍睡眠までして取りに行かなくても、太陽系からそこへデータをアップロードできたのだから、ダウンロードして体を戻していけばいいような気もするのですが。

PART1 で印象的だったのは、アクリラが《救世群》の本拠地から逃げて来て、助けを求めるシーン。カドムやラゴスはアクリラは死んだと思っていますから、私はアクリラだと言われても信じられない。そこで、本人かどうかを確かめるような質問を考えます。

アクリラなら覚えているはず――やつと君が、セナーセーの灯台でイサリと初めて出合ったとき、イサリのどこを撃ち抜いたか?
(1, p.174)

1巻で出てきた話ですね。このことを知っているのはイサリと、その場にいたアクリラとセアキ。質問されたアクリラはこの問いを聞いて、その場にセアキがいることに気付いて喜ぶ、というなかなかいいシーンです。

てなわけで、もう一つ。羊飼いのポント大臣は、喋り方が面白い。

はあ、ダダーらぁ、確かにそのようなところがありおりますな。
(p.233)

ありおりはべりいまそかり。

(続く)


天冥の標IX PART1──ヒトであるヒトとないヒトと
小川 一水 著
ハヤカワ文庫
ISBN: 978-4150312138