Phinlodaのいつか読んだ本

実際に読んでみた本の寸評・奇評(笑)

天冥の標VIII ジャイアント・アーク

今日は天冥の標、Ⅷ。「ジャイアント・アーク」。PART1 と PART2 に別れています。

この章は、1章の「メニー・メニー・シープ」と同じ時間軸で進行します。1章の謎解きのような内容になっています。1章に出てきたイサリは、300年の冷凍睡眠から目ざめたところだったのです。

メニー・メニー・シープというのは何かというと、

「ここは東西南北百三十キロの、巨大な地下空洞なの。私たちは三百年間、それと知らずに人工の地下世界で暮らしてきたのよ」

(PART1, p.80)

そして、その地下世界から、天井に登ろうとする、というのがこの章のおおまかなストーリーです。メインキャスターのカドムとアクリラは殆ど死んだ状態になりますが、アニメ的にはその後超強ぇ人間【謎】として転生する…というのがありがちですが、この物語では致命的な損傷を負った内臓を機械で代用するという大技が出てきます。

ストーリーの感想を書くと訳が分からなくなるので毎度のようにパスして、興味を持ったところをいくつか紹介します。

左方向が過去で、右方向が未来に当たる。
(PART1, p.11)

左右という概念を宇宙人に説明するのはかなり難しいと思いましたが。案外サラっと左右という概念が出てきました。

奉仕は快楽だ。正解のない難問をたった一人で負わされるよりも、よく知っている仕事を手際よく仕上げて報酬を受けることのほうが簡単だ。
(PART1,p.138)

《恋人たち》の言葉。《恋人たち》は奉仕することが最優先のミッションなので、それが快楽にリンクされているのは当然の設計方針だと思います。という余談は置いといて、後半の「簡単だ」というのは、だけど面白くない、という指摘だと解釈しました。

メニー・メニー・シープでは科学は再現できなかったというネタが出てきます。これは、高度な概念が生まれても、

それを理解する研究者も奨励する政府機関もないため、未熟な独自研究の域を出ることなく、やがて細って消えた。
(PART1,p.152)

というのが原因だというあたり、凄い観察力だと思います。現実世界では、細って消えていく概念がたくさんあるのです。

最後にひとつ、これは分かるというのが。

医者には筋道立った考えをしようとするくせもあってな、
(PART2, p.273)

魔術師じゃないですからね。日常的に慣れた手順であっても論理的に治療するというのが医者なのです。多分。


天冥の標VIII ジャイアント・アークPART1
小川一水
富安健一郎 イラスト
ハヤカワ文庫JA
ISBN: 978-4150311599

天冥の標VIII ジャイアント・アークPART2
ISBN: 978-4150311698