Phinlodaのいつか読んだ本

実際に読んでみた本の寸評・奇評(笑)

天冥の標〈1〉―メニー・メニー・シープ〈下〉

今日は昨日に続いて「天冥の標」、Ⅰ、「メニー・メニー・シープ」の下巻です。

電源供給のために使われているシェパード号を再起動して他の星に飛ぶという噂が広まって、それを阻止する反政府勢力がクーデターを計画します。というのが下巻のざっくりストーリー。しかしモノスゴイ結末が待っているのです。こんなの説明していたら余白がいくらあっても足りないので、ストーリーの感想はパスします。

ということで、キャラに視点を合わせてみると、まず注目するのはカドム。あちこちに出向いて交渉役になるのは、坂本龍馬的な立ち位置かも。

そして面白いのは《石工》のリリー。精神的に進化します。

まだまだ自分が愚かだったと気づいた。そして、気づいたことそのものに意味を見いだした。愚かだという自覚を持つことは、賢くなることへの第一歩だ。
(p.185)

さらに、

賢くなったために、リリーはその賢さ自体について考えることができた。
(p.186)

賢いとは何か、なんて難しいことは賢くないと考えないものなのです。他にはイサリとかユレインとか、心理的なところを想像してみると結構キツい人生のようです。

一つ気になったのは、クライマックスで電源の制御権を手に入れた反政府勢力のリーダーアクリラが、電源を切り替えるシーン。

警告。電源リソースの配分を変更すると、現在続行中の最優先作業が中断されます。予期せぬ影響が出る恐れがあります。続行しますか?

アクリラはこれに対して即答で「やれ」と命じて大変なことになります。

実際にそういうことはあり得るのでしょうか。うっかりやっちゃった、てへぺろ、的な。私なら少なくとも実行前に、中断される最優先作業というのは何なのか確認しそうです。強いAIが実現している世界なら、「予期せぬ影響」の具体例を予期するように指示するかもしれません。

超ビックリの結末は超大作の始まりに過ぎません。話はⅡ「救世群」に続きます。


天冥の標〈1〉―メニー・メニー・シープ〈下〉
小川 一水 著
ハヤカワ文庫JA
ISBN: 978-4150309695