今日は、1月27日に紹介している「修道女フィデルマの挑戦」に掲載されている短編、「痣」を読み返しました。この作品は特にお気に入りで、たまに読み返しているのです。推理のプロセスがロジカルで、何か落ち着くのです。
そして、最近もう一冊、ちまちまと暇をみつけて読んでいるのは、綾瀬まるさんの「くちなし」。
今までになかった視点に仰天させられるような短編集です。1作目の「花虫」は、人間に花が咲くという話。その花は実は寄生虫、という怖い話なのですが、
本当のことを知ると世界が変わるよ。
(p.37)
このストーリー自体、本当のことを知っても否定してしまう、そのような矛盾・葛藤が描かれています。人生は不条理です。
2作目「愛のスカート」は、デザイナーのトキワが近所の奥さんにスカートを作るという話。トキワの元同級生、ミネオカという女性との微妙な関係が描かれています。二人が高校生の頃の会話。
「わかった。ミネオカは人に褒められるのが好きで、頑張るんだ」
(p.71)
ネットの投稿をみていると、誰かに褒められたいから頑張る、という人が結構目立つようです。大学に行くときにも、何か夢があるからというのではなく、親孝行という言葉が出てくるのです。勉強しても親が褒めてくれないからやる気をなくした、というような質問が投稿されます。そのような発想は、自分がやりたいからやる、という人には想像できないのです。
トキワはその「やりたいからやる」系の人なのですが、ミネオカの「褒められるのが好きで頑張る」という行動パターンに気付いて理解しています。そのあたりの微妙さが面白いのでしょう。
3作目の「けだものたち」は、人ではなく怪異になってしまう「けだもの」の話ですが、人間は誰でもケダモノなんだ、というような告発のような気もしてきます。
「あんたはすぐに自分の知らないもののことを、一部とか派手とか言って遠ざける」
(p.112)
小説中では「あんた」に限定していますが、この「あんた」が全人類を指しているようにみえてくるのです。
くちなし
彩瀬 まる 著
文春文庫
ISBN: 978-4167914714