Phinlodaのいつか読んだ本

実際に読んでみた本の寸評・奇評(笑)

ツインスター・サイクロン・ランナウェイ (2)

先日紹介した「ツインスター・サイクロン・ランナウェイ」ですが、ちょっと謎すぎるのでもう少し背景を説明してみます。このストーリーに出てくる惑星は、

巨大ガス惑星、ファット・ビーチ・ボール。大昔の木星に似た横縞と大渦の天体
(p.9)

このガス惑星からガスを吸い上げて資源として利用するのですが、このガスというのが、

無害の水の雲や猛毒のヒドラジンの雲やとにかくザラザラする硫黄と赤燐の雲と、その他の大部分を占める普通に呼吸できない水素とヘリウムの風が、時速400キロで渦を巻く大魔境
(p.41)

という状況です。ガスで覆われた惑星から水素をgetして宇宙船の燃料とする、というアイデアは古典SFから見られたネタですが。

人々はこの惑星を周回する軌道上の宇宙船で生活しています。周回軌道から資源を取る時には、宇宙船で大気中に降りてきてまた戻る、という作業になります。この作業がコストに見合わずジリ貧になっているところで、

大気中を遊泳する「魚」(フィッシュ)が目撃され始めた
(p.10)

ということで、資源を効率的に得るために魚を釣る、さらには網で獲ることになります。

周回軌道からガスの海に降りるのに使うのは、礎柱船(ピラーボート)です。

礎柱船は変形する。宇宙空間で太陽発電している最中は扁平型で、デブリの当たる慣性航行では頭でっかちのキノコ型。そして大気圏突入時には鋭い砲弾型の最適空力形態を取る。
(p.41)

バルキリーのような変形ロボット的な構造ではなく、

全質量可変粘土
(p.41)

という自由自在に変形できる素材でできているのです。SFスゴいです。先程出てきた網というのは、この粘土を使って形成することになっています。

どうせなら摩擦ゼロの素材とか重力波を使ってデブリが絶対に当たらないとか、そういう原理があってもいいような気もしますが。宇宙船で網を使って魚を取る、というのがリアルなのかファンタジーなのかよく分からない不思議な世界観です。

 

ツインスター・サイクロン・ランナウェイ
小川 一水 著
望月 けい イラスト
ハヤカワ文庫JA
ISBN: 978-4150314217