Phinlodaのいつか読んだ本

実際に読んでみた本の寸評・奇評(笑)

山椒魚

山椒魚は悲しんだ。
(p.8)

成長し過ぎて頭がつかえて岩屋から出られなくなった山椒魚。馬鹿げた話ですが、何かの比喩だと思えば馬鹿にできないのかもしれません。ダイエットすれば出られるのではないかとか、道具を使って岩を砕いてみたらとか、余計なことも想像してしまうのですが、後半に蛙が入って来てからは、喧嘩ばかりしているのに何か微妙に楽しそうです。

山椒魚が一人でいるときは、外の世界を見て悲しみ、目を閉じてしまいます。

山椒魚は閉じた目蓋を開こうとしなかった。何となれば、彼には目蓋を開いたり閉じたりする自由とその可能とが与えられていただけであったからなのだ。
(p.14)

 

目を閉じるというのは外界からの情報を拒絶するということで、その選択権は山椒魚が持っているというのですが、見方を変えると、その程度の自由しか与えられていないということになります。

自由主義の国はありますが、全てが自由というわけではありません。むしろ、不自由なことの方が圧倒的に多い。その中でコレとコレが自由だという選択肢が与えられている現状は、山椒魚の世界と似たようなものかもしれない。

そこで後半になるのですが、蛙がこの世界に入って来て、帰ることができなくなります。山椒魚が出口を塞いでしまうのです。それによって、山椒魚はそこから動けなくなりますから、自由度はさらに制限されるのですが、なぜか山椒魚はイキイキしているのです。

 

山椒魚
井伏 鱒二 著
新潮文庫
ISBN: 978-4101034027