Phinlodaのいつか読んだ本

実際に読んでみた本の寸評・奇評(笑)

赤死病の仮面

今日は先日ちらっと話題に出した、ポオ作「赤死病の仮面」(The Masque of the Red Death)です。岩波文庫の「黄金虫・アッシャー家の崩壊 他九篇」に収録されています。

「赤死病」というのは、黒死病(ペスト)から想像した架空の病気とのこと。

疫病の感染、進行、終焉の全過程は半時間以内
(p.225)

感染して30分で死ぬという大変な病気です。コロナどころではありません。感染したら終わりです。多分マスクも無意味です。プロスペロ公はこの凶悪な病気に対して、

宮廷の騎士や貴婦人の中から健康闊達な連中を一千ばかり御前に召し、これらの客どもと城塞風につくられた僧院のひとつに遠く世塵を避けて引きこもった。
(p.225)

僧院は高い壁で囲まれていて、出入口は全てロックして出入りできない状態にしました。ロックダウンです。壁の外で疫病が大流行していても、壁の中は無関係というわけです。デカメロンはペストの流行から避けるために郊外に逃れた貴族が話をするという設定になっていますが、疫病が流行したときに外界から遮断された閉鎖空間に立てこもる、という対策は昔からあったのです。

プロスペロ公は仮面舞踏会を開きます。マスクパーティです。会場は7つの続き間で、青、紫、緑、オレンジ、白、菫色、この6つの部屋は窓の色と部屋の色が統一されていますが、最後の7番目の部屋だけは、部屋は黒、窓は赤になっています。黒と赤という色彩は、黒死病(ペスト)と赤死病を連想させます。

この会場に突然、赤死病のコスプレをした人物(?)が現われます。この不届き者に対してプロスペロ公は叱責し、仮面を取れと命じるのですが、乱入者に立ち向かう者は誰もおらず、この男が、

青の間を通って紫の間へ――紫の間を通って緑の間へ――緑の間を通ってオレンジ色の間へ――そこからまた白の間へ――そしてまた菫色の間へと進んでいった
(p.234)

この描写の色鮮やかなインパクトが物凄いです。プロスペロ公は仮面の人物を追いかけていき、対峙して、後はご存知の通りとなるわけです。

 

黄金虫・アッシャー家の崩壊 他九篇
ポオ 著
八木 敏雄 翻訳
岩波文庫
ISBN: 978-4003230633