Phinlodaのいつか読んだ本

実際に読んでみた本の寸評・奇評(笑)

贅沢貧乏 (3)

今日は森茉莉さんの「贅沢貧乏」から、「気違いマリア」。何故かこんな簡単な単語の変換に苦労しましたよ。ここまで読んでみて、森茉莉さんが普通の感性ではないというのはよく理解したつもりですが、マリアは、

ここのところは永井荷風の気ちがいが遺伝している。
(p.158)

何のことかと思いきや、

マリアに荷風の遺伝はおかしいが、荷風が自分の部屋で行きだおれて死んだ時、彼が死ぬや否や、彼の空気分解した脳細胞の中の悪い要素が風に乗って、市川本八幡から世田谷淡島に飛来し、それがマリアの頭にとり憑いた、ということも科学的にはともかくとして、情緒的には有り得るのだ
(pp.158-159)

ないない。とか突っ込んだら負けなのです。

マリアは住んでいる白雲荘の共同の手洗いの床が超絶嫌いのようです。

きれいな時でも触るとなめくじの背中のような感触があって、冷たさと湿り気もなめくじそっくりである。
(p.161)

なめくじの背中をなでたことがあるのでしょうか。なめくじと言う位なので、滑らかなのかもしれません。昔の長屋(?)の共同の台所とか、こういう感じの洗い場は結構あったと思います。っていつの話だ。

この作品には、著名人が沢山出てきます。マリアは三島由紀夫を「いい人間」と評しています。

(贋ものでない、いい人間である。いい人間には贋ものがいるので、複雑に紛らわしいのである)
(p.168)

ニセモノのいい人間ってのが気になりますね。どういうのでしょう。マリアの父親(森鴎外)も出てきます。

夏も冬も、ジャン・ヴァルジャンがコゼットを連れ出す時、護身用に持っていたような、太く真直ぐな黒檀のステッキを突いている。
(p.175)

鷗外がジャン・ヴァルジャンということは、マリアがコゼットなのですね。映画化したら面白そうなキャストかな。

もう1編いきましょう。次の作品は「降誕祭パーティー」。って古風でピンとこないかもしれませんが、クリスマスパーティーです。まず招待状が来ますが、マリアに届く郵便物一覧が面白い。

税務署の通知、赤い線で注意を促してある督促状、赤の二重丸つきの第二督促状、薔薇色の紙に印刷した最後通牒
(p.183)

何を滞納してるんでしょうね。督促状なら何回か受け取ったことがありますが、二重丸はまだ見たことがありません。

さて、招待状を開いたら英語で書いてあります。

at buffet Christmas party
(p.186)

この buffet はビュッフェのことですが、こういう意味もあるとマリアは知っている。

不等辺三角形の亡霊にとり憑かれた受験生が描いたような人物画を描く、マリアの嫌いな「人生苦の世界」型の画を描く画家の名
(p.186)

ベルナール・ビュフェのことでしょうか。1999年に亡くなりました。さて、パーティ当日マリアは出かけますが、いつものように何か抜けています。

真島邸の地図を忘れて出たので、大森の臼田坂上のバスの停留所を下りると宛もなく、歩き出した。
(p.196)

無茶苦茶しますね。しかもこれが反対方向に行ってしまうのですが、

文学にとり憑かれた狐
(p.196)

に出会って無事、会場に辿り着きます。そのうち盛り上がってハイになって気分が悪くなって退出してしまうのですが、もしかして飲み過ぎたりしましたかね。

(つづく)


贅沢貧乏
森 茉莉 著
講談社文芸文庫
ISBN: 978-4061961845