Phinlodaのいつか読んだ本

実際に読んでみた本の寸評・奇評(笑)

修道女フィデルマの叡智 修道女フィデルマ短編集

今日の本は「修道女フィデルマの叡智」。ミステリーでファンタジーです。この本は短編集で、5つの作品が入っています。

フィデルマはドーリィー(弁護士・裁判官)であり、アイルランド五王国の法廷に立つ権利を持っていて、アンルー(上位弁護士)という肩書も持っていて、しかも王位継承予定者の妹という、至れり尽くせりの設定で、知恵と勇気【謎】で難事件を解決していくのです。 聞き取りの結果から真犯人を推理するストーリーは正統派、なかなかのもので、さらに、このシリーズは意外な犯人というところでかなり首尾一環しています。

1作目「聖餐式の毒杯」は、ローマ巡礼中にたまたま立ち寄った小さな教会のミサで毒殺事件に遭遇するという話。登場人物は少ないのですが、皆怪しくて、読んでいても犯人を絞らせてくれません。

2作目「ホロフェルネスの幕舎」は、旧友のリアダーンが息子の殺害犯人として捕らえられて、その弁護をするというストーリー。動機もなかなか深くできています。ファンタジーということで、刑罰も独特なのですが、

もしリアダーンに有罪判決が下された場合、いたって禍々しい犯罪であるので、リアダーンは屋根も櫂も帆もない小舟に、食料も水もなしに乗せられ、外洋へ押し出されることになりましょうな。
(p.88)

この刑罰の意味は巻末に解説があって、「神の裁きに委ねる」という趣旨のようです。こういう刑罰は現代社会では見られないものですね。

3作目の「旅籠の幽霊」は、母危篤の知らせを受けて吹雪の中を旅しているフィデルマが嵐の中に見つけた宿屋に幽霊が…というストーリーです。この宿屋の主人が、

この旅籠の中に、お宝を残していく
(p.146)

と言って出兵するのですが、あっさり戦死してしまう。独り身になってしまった女主人のモンケイはお宝を探しますが、出てきません。ていうか、元から信用していないのです。あれこれ何とかやりくりしているうちに、今の主人を見付けて結婚し、二人で宿をやるようになったのです。そこで出てきたのが元夫の幽霊というコワイ話。ちなみにこの話、フィデルマの母はどうなったのか全然分かりません。

4作目の「大王の剣」は、王位継承に使う剣が盗まれてしまうという物語。王位を継承する者が守るべき七つの証というのが、

「正しき王は、タラの〈大集会〉において承認されたものでなければならぬ。王は、唯一の真の神エホバの教えに従うものでなければならぬ。王は、王権の象徴である聖なる宝剣を継承し、それに対して忠誠をつくす者でなければならぬ。王は、〈ブレホン法〉を遵奉して国を治めねばならぬ。王の判断は、公正にして確乎たるものであって、非難を招くが如き瑕瑾ある決断であってはならぬ。王は、王土と国民の繁栄と安泰を求めねばならぬ。王は、決して大儀なき戦にその武力を行使してはならぬ……」
(p.184)

宝剣がないと王位が継承できませんから大変です。容疑者は既に逮捕されていますが、剣が出てきません。そこでフィデルマ登場となるのです。この話は動機が意外で、やはり面白いです。

5作目の「大王廟の悲鳴」は、墓場から悲鳴が聞こえてきたという、これもコワい話。封印されている墓の門を開けてみると、

扉のすぐ内側に、男の死体が転がっていたのだ。
(p.254)

封印されている墓地で殺されたのだから密室殺人のようなものですね。


修道女フィデルマの叡智 修道女フィデルマ短編集
ピーター・トレメイン 著
甲斐 萬里江 翻訳
創元推理文庫
ISBN: 978-4488218119