Phinlodaのいつか読んだ本

実際に読んでみた本の寸評・奇評(笑)

掟上今日子の家計簿

今日は西尾維新さんの掟上今日子シリーズから、「掟上今日子の家計簿」です。何でそんな途中から始めるのか、とか言われそうですが、私もそう思います。推理してください。

念の為ざっくり紹介しておくと、掟上今日子という寝たら記憶が全部リセットされて寝る前のことを忘れてしまう特殊能力を持つ探偵が主人公です。掟上は「おきてがみ」と読みます。この読み方は鰯水(いわしみず)とかいう名前を思い出しましたが、それはまあどうでもよくて、

第一話は「掟上今日子の誰がために」。ペンションで殺人事件です。外は吹雪で出入りできないため、犯人はその中にいる、というパターンです。動機をいろいろ想像していくところは面白いですが、ここに出てこない動機もいろいろありそうな気もしますね。電波に操られていたとか。最近、電波強そうだし。

第二話は「掟上今日子叙述トリック」。叙述トリックを14種類に分類してくれたので勉強になりますが、こんな感じ。

1. 場所の誤読
2. 時間の誤読
3. 生死の誤読
4. 男女の誤読
5. 人物の誤読
6. 年齢の誤読
7. 人間の誤読
8. 人格の誤読
9. 語り部の誤読
10. 作中作の誤読
11. 在不在の誤読
12. 外回りの誤読
13. 人数の誤読
14. その他の誤読

それぞれの詳細は作中で解説されているので、興味のある方は作品を読んでもらうとして、これ一つ最も単純なのが抜けてませんか。14「その他」があるから抜けはありませんけど。何かというと、つまり、誤読です。普通に誤読しました、みたいな。柿だと思っていたら杮でした的な。

「ひと昔前の推理小説では定番でしたけどね。ミステリーサークルが合宿に出かけて、悲劇に見舞われるというのは」
(p.59)

ミステリーサークルって何となく意味が違うような気もしますが、このブログでは有栖川有栖さんの「月光ゲーム Yの悲劇'88」という作品がそうですね。

エラリィ・クイーン?
(p.63)

推理小説界のレジェンド、クイーンを知らないという想定で書かれているのですが、確かにこの名前は知らない人が見たときに女性なのかと思っても不思議ではないですね。最初から男二人と知っていたから、考えたこともなかったです。

二々村警部がちょっと引いたのを察したらしく、「最新の行動経済学に基づけば、人は必ずしも合理的な行動ばかりを取るわけではありませんが」
(p.76)

不勉強なもので、行動経済学のその理論は知らないのですが、AIのモデルとしては、人は必ず合理的な行動を取ると定義した方が処理は楽です。厳密にいえば、人は必ず自分が最も合理的だと判断した行動を取る、です。それが実際に合理的であるとは限らない、というところでエラーを吸収するので、動作としては同じになるはずです。

第三話「掟上今日子の心理実験」で、これも密室殺人。どれかな、個人的には「6.年齢の誤読」あたりの応用ではないかと。

『何を考えているかわからない人間』というのは、やはり怖いものだ
(p.146)

本能として、何か分からないという対象に対しては恐怖感を持つものですが、もう一つ、怖い相手だと知っているときもやはり怖いですよね。

第四話「掟上今日子の筆跡鑑定」。この話は、筆跡鑑定ではありません。これはどのパターンの誤読だろ、タイトルが嘘というのは。外回りかな。もっとも、別にストーリーとは関係ないのですけど。本編はアリバイ崩しです。しかも筆跡ではなくて、古典的なアレでアリバイが崩れるところが肩透かしです。


掟上今日子の家計簿
西尾 維新 著
VOFAN
講談社
ISBN: 978-4062202701