Phinlodaのいつか読んだ本

実際に読んでみた本の寸評・奇評(笑)

幻の漂泊民・サンカ

サンカといえば、個人的には山の民、季節に応じて山から山へ渡って生活していて戸籍にも出てこない、裏の日本人のようなイメージなのですが、一般には賤民に分類されているようです。私のイメージはおそらくカムイ伝のような漫画(カムイ伝に出てきた記憶はないのですが)か、龍慶一郎の作品に出てくる道の民のような印象が追記されて出来たのかもしれません。あるいは、柳田國男さんと南方熊楠さんのバトルが記憶に残っていたのかもしれません。

この本はサンカの起源や生活を民俗学的なアプローチで事実を追求しようというものです。例えばサンカという表現については、

安芸国安政二年の庄屋文書に「サンカモノ」が出てくるが、これが現在までに見つかった初出資料である。浜田県(現島根県)や広島県が新政府に提出した維新直後のサンカに関する報告書では、「サンカ」は「山家」と表記されていて、山の盗賊を意味する「山窩」の文字は用いられていなかったのである。
(p.58)

既にサンカは絶滅したと言われていて、今から研究するためには今更でも古文書を掘り起こすしかないと思われるのですが、各府県の市町村史史を調査し直すというアプローチについて、

もちろん、そのすべてに目を通すことは不可能である
(p.26)

というのは、すべて電子化してしまえばAIに目を通させることが可能のような気がします。

著者の沖浦さんは、サンカの期限について3つの説を紹介しています。

第一は、かつて柳田國男が想定したように、彼らの先祖はこの列島の先住民というべき〈山人〉でありその系譜は遠く先史時代まで遡ることができるのではないかと推測する説
(p.182)
第二は、喜田貞吉が指摘したように、サンカの源流は遡ってもせいぜい室町期であって、その当時の賤民系集団の一つが期限ではないかと考える説
(pp. 182-183)
第三は、サンカの発生はもっと新しく、幕末の危機の時代であるとする説
(p.183)

沖浦さんは第三の説を支持しているようです。その背景として、天保の飢饉を例として、

村民の四一・五パーセントが、餓死・病死・行倒れで死んだ
(p.71)

あるいは、柳田國男さんが「山の人生」で紹介した、

奥美濃の山中で炭焼きをしていた男が、女房に死なれて生活に困窮し、食べる物もなくなって殺してくれという二人の子どもの首を斧で打ち落としたという衝撃的な事件
(p.137)

といった極限状態となったときに、

餓死を免れるため、〈山〉に入る――それは、長い歴史から学んできた民衆の知恵だった。
(p.221)

それがサンカ(山家)になったのではないか、というのですが、どうも個人的には、説得力はあるとしても検証力に欠ける、想像の域を出ていないように思えます。なにしろ文献がないというのが致命的なので、例えばそのような極限状態になったのは幕末の頃が初めてではないような気もするわけです。


幻の漂泊民・サンカ
沖浦 和光 著
文春文庫
ISBN: 978-4167679262