Phinlodaのいつか読んだ本

実際に読んでみた本の寸評・奇評(笑)

天主信長〈表〉 我こそ天下なり

今日は上田秀人さんの「天主信長」。この本は表と裏の2冊あるのですが、今回は表を紹介します。ストーリーは織田信長の人生を、比叡山延暦寺の焼き討ちから本能寺まで。本能寺の変の解釈が面白い。ここは伏せておいた方がよさそうなので、今回は触れません。

もちろんメインキャラは信長ですが、それを竹中半兵衛の視点で描いています。

「信長様は苛烈である。だが、不思議と人を引きつけるものをお持ちだ。次に何をなさるか読めぬところが、興味を惹く」
(p.69)

竹中半兵衛の言葉です。策士の竹中半兵衛でも信長の行動は読めないというのです。ま、要するに無茶苦茶なのですが。

織田信長といえば、人生五十年、というのが有名ですが、宣教師ルイス・フロイスキリスト教の天国の話を聞いたときに、

なにもすることがないならば、生きている意味もあるまい。
(p.95)

という感想を述べるのは面白いです。永遠の命よりも大切なものがあります。

半兵衛の策の真髄は臨機応変

こちらの思うとおりに、相手が動くことはかぎらぬ。いや、そうでないことのほうが多い。
(p.115)

しかし、半兵衛は労咳にかかり、ストーリーの途中で病死してしまいます。余命のない半兵衛に、信長は、死ぬのは怖くないのかと訊きますが、

「恐ろしゅうございまする。なにせ経験いたしたことがございませぬ。人は頭で理解できぬことを恐怖いたしまする」
(p.212)

そう言っている割に怖そうに見えないのですね。武士というのはそういうものなのでしょうか。理解できないものを恐怖するというのは、警戒心から生まれる本能のようなものです。理性を働かせると、それも克服できるようです。

 

天主信長〈表〉 我こそ天下なり
上田 秀人 著
講談社文庫
ISBN: 978-4062776219