Phinlodaのいつか読んだ本

実際に読んでみた本の寸評・奇評(笑)

すっとび平太-はぐれ長屋の用心棒(25)

今日は「はぐれ長屋の用心棒」シリーズ25作目、「すっとび平太」。今回殺されるのは、はぐれ長屋の住人、大工の益吉。亀楽というシリーズではお馴染みの居酒屋で飲んでいるところを何者かに殺されます。益吉の弟の平太は、兄を殺した下手人を捕まえたいと思い、長屋の孫六に子分にしてくれと頼みこみます。孫六は嫌がるのですが、

「おれは知ってるぜ、孫六親分は、番場町の親分と呼ばれた腕利きの御用聞きだったはずだ」
(p.31)

そう言われるとまんざらでもない。孫六は足を悪くして岡っ引きを引退しつつも、何かあったら探索に加わるというキャラです。対照的に、平太は足が速い。それですっとび平太という呼び名になのです。ばくはつ五郎【誰】みたいな?

この話、最初は兄殺しの犯人捜しでしたが、実は料理屋の縄張り争い。益吉は料理人殺しのとばっちりで殺されてしまった。松波屋という店が、ライバル店を潰す目的で、他店の評判のいい料理人を殺し屋を雇って消したわけです。

源九郎達は、最初は仲間の敵討ちということでほぼ無償奉仕で動いていますが、被害を受けた料理店の主から百両で仕事を依頼されて、俄然やる気が出る。何するにも金がないと厳しいのは昔も今も同じようです。

しかし相手も悪い奴だけに黙っていないわけで、喜楽に仲間が集まったところに襲撃する。この時、源九郎と菅井という遣い手は喜楽にはいなくて、長屋で将棋を指しているから大ピンチです。ここですっとび平太の出番で、大急ぎで長屋まで走って二人を呼んできます。何とか間に合った二人は、喜楽で凄腕の殺し屋と勝負ということになります。

今回の凄腕は竹本甚兵衛。名前を呼ばれたところで、

「名を知られたからには、生かしてはおけぬ」
(p.197)

リアクションは三流ドラマみたいに凡庸ですが、腕はいい。ただ、もう一人の牢人とやり合っていた菅井が相手を倒したところで、

「勝負はあずけた」
(p.201)

変わり身の速さも尋常じゃない。逃げた。ていうか生かしておけないという話は一体どこ行った?

今回のラスボス的なのは佃の久兵衛。職業はインキュベーター、ではなくて、高利貸しとか賭場を開いたりとか、パターン通りの悪人ですが、腕は普通の悪い奴、って感じでしょうか。コイツが竹本を雇っているわけですね。

さて、話変わって、江戸の描写ですが。

両国広小路からすこし大川の下流に歩くと、薬研堀にかかる元柳橋があった。この橋は柳橋と呼ばれていたのだが、神田川の河口にかかる橋が柳橋と呼ばれるようになったため、元柳橋になったとか――。
(p.82)

マップで調べてみると、神田川から墨田川に合流するあたりに小さな橋がかかっていて、これが今でも柳橋と呼ばれているようです。薬研堀というのは埋め立てられてしまい、現存しません。元柳橋もないようですが、そこに大きな柳の木があったので柳橋と呼ばれていたそうです。幽霊でも出そうな感じですね。


すっとび平太-はぐれ長屋の用心棒(25)
鳥羽 亮 著
双葉文庫
ISBN: 978-4575665741