Phinlodaのいつか読んだ本

実際に読んでみた本の寸評・奇評(笑)

子盗ろ

今日は「はぐれ長屋の用心棒」シリーズから「子盗ろ」。ことろ、というのは子供の遊びのようですが、よく分かりません。ざっくり概略を紹介しますと、今回は、人さらいと対決する話です。

このシリーズ、主人公は源九郎、というのを何度か紹介していますが、こんな感じです。

源九郎は鏡新明智流の達者だった。十一歳のとき、日本橋茅場町にあった桃井春蔵士学館に入門し、めきめきと腕を上げた。
(p.60)

その後転々として、はぐれ長屋に至るわけです。ただし転々とした間にいろんな技を身に付けています。年を取って、技を繰り出すとすぐに疲れてぜぇぜぇ言うような体力になっています。ウルトラマンみたいなものです。

この作品は、江戸の風景がよく出てきます。江戸の話なので当然ではありますが、これは武士を尾行するシーンです。

羽生は、神田川にかかる昌平橋を渡り神田へ出た。さらに、日本橋の方へ足早に歩いていく。
(略)
羽生は、芝口橋(新橋)を渡ってしばらく歩くと、右手の町家の先に増上寺の堂塔が見えてきた。浜松町である。
(pp.188-189)

羽生というのが謎の武士。増上寺というのは大門のところですが、昌平橋から浜松町って4~5kmありませんかね、結構歩いてますね。

このシリーズ、サラっと読み切れる軽さですが、ちょこちょこと江戸の風景が織り込まれています。今の東京はテクノポリスなのでその片鱗もないのかもしれませんが、何かタイムスリップしたいような気分になれます。

風のなかに魚の臭いがただよっていた。
わたった先が日本橋本船町。日本橋川の東側にあたるこの辺りが、岸沿いに魚屋が軒を連ねる魚河岸で、本船町、隣町の安針町、長浜町と生魚をあつかう店や塩乾物をあつかう店などがたて込んでいる。
(p.254)

このような光景は後世に残すべきだと思うのですが、東京は空襲で焼けてしまいましたし、ちょっと無理がありますか。江戸というのは火事で何度も焼けて復活した不死身の町なのですが、元通りになるわけではないようです。

今回の話は、最後に殺し屋と対決するときに、こんな会話があります。

「うぬの名は」
源九郎が誰何した。小室兄弟としか分かっていなかった。
「小室甚之助」
「わしは、華町源九郎」
「華町、勝負!」
(p.296)

日本人は形から入るといいますが、こういうプロトコル、好きなんですね。さっさと攻撃すればいいのに、とか思うのですが。

 

子盗ろ―はぐれ長屋の用心棒
鳥羽 亮 著
双葉文庫
ISBN: 978-4575662122