Phinlodaのいつか読んだ本

実際に読んでみた本の寸評・奇評(笑)

とにかくうちに帰ります

平成最後の紹介になる本は、津村記久子さんの「とにかくうちに帰ります」。

3つの作品が入っていますが、最初の「職場の作法」は社員小説、とでも呼ぶのでしょうか、このジャンルはよく分かりません。この作品はさらに4つの小作品に分かれています。どれもリアルです。

私としても、間宮さんが限りなく黒に近いグレーというだけで
(p.32)

限りなく透明に近いブルー、という小説がありますが、そういえば、まだ読んでなかったようです。余談はさておき、このグレーって何の話かというと、他人の机の引き出しに入っている文房具を勝手に使われてしまうというのです。私は自分の文房具は肌身離さずという感じなので、勝手に使われることはあり得ないです。その間宮さんのキャビネットが、

紙だらけだったのだ。それも、フォルダを使って整理せず、ひたすら裸の書類が放り込まれている。
(p.41)

これは「超」整理法ですよ、私もこのやり方です。キャビネットは書類が積まれた状態になっています。案外探しやすいものです。

「小規模なパンデミック」は、職場がインフルエンザで順繰りに全滅していく物語ですが、なぜ流行したかというと、

理由はたぶん、前日の通院において、待合室で一時間近くも過ごしたからだ
(p.47)

インフルエンザあるあるですね。ツイてない人も極めると、予防接種を打ちにいって感染するそうです。

2つ目の作品は「バリローチェのファン・カルロス・モリーナ」、フィギュアスケートの話です。とはいってもスケートのシーンではなくてコーチとのドロドロ話とか、録画がどうなったとか、そういう感じの話です。

フィギュアスケートの選手を見ていて、ジャンプが成功したときと同じぐらいすごいと思うのは、転んだ時にも素早く起き上がって演技を続けるところだが、ファン・カルロス・モリーナにその才能はなかった。
(p.87)

メンタルが弱いのだというのです。確かに一度コケると後がボロボロという選手は結構いますよね。宇野さんのように、最初にコケたら後はしっかり滑り切るというスケーターもいますが。

あと、気になったのは氷が割れて落ちたときにどうやって這い上がるかという蘊蓄話です。

ひじを使って上体を氷の上にもたせかけて、持っていれば鍵とか、クシとか、先の尖ったものを氷に突き立て、体を引っ張り、上半身を氷の上にもっていく。
(p.90)

そういうネタってどこから仕入れるんでしょうね。一旦ここで切ります。

 

とにかくうちに帰ります
津村 記久子 著
新潮文庫
ISBN: 978-4101201412