Phinlodaのいつか読んだ本

実際に読んでみた本の寸評・奇評(笑)

勉強大全 ひとりひとりにフィットする1からの勉強法

今日は伊沢さんの「勉強大全」について。クイズ番組や YouTube でおなじみのアノ人だが、

この本、最初に一言ツッコんでおきたいのは、ココ。

決めるのはあなたです。決めたのはあなたです。あなたの結果ですから、責任を持つべきはあなたです。
(p.097)

勉強法の選択は自己責任だということなのだが、勉強法の本の著者がそれはないでしょ、という感じがしなくもない。しかし、大抵の勉強法の著者は、この通りやれば成績が上がる、みたいなことを書いているから、それに比べると正直だという見方が正しいのかもしれない。

伊沢さんは受験勉強を次のように解釈している。

正しく目的地にたどり着くためには、合格に向けて正しい方向に、正しい量の努力をしなければなりません。
(p.085)

ベクトルと認識しているのが面白い。確かに方向がズレていると、いくら勉強しても得点upにつながらない、というのが受験勉強の特徴である。この方向というのが受験勉強の極意なのだろう。ここでは努力という表現になっているが、物理学的には「仕事」と表現してもいいと思う。

勉強は量なのか質なのか、というのが受験生のFAQなのだが、勉強の質って一体何かという謎はおいといて、伊沢さんの解釈は、

質と量は対立する概念ではなく、併存する概念だ
(p.101)

これは同感である。なぜかというと、勉強の質は量が増えるほど良くなるからである。質か量かではなく、勉強は質量なのだ(笑)。ちなみに伊沢さんは「量×質」と主張している。その質とは何かというと、こんな話も出てくる。

 例えば、過去問を解く時、1年分を12時間かけてやった人と2年分を10時間かけてやった人がいるとします。どちらが良い勉強でしょうか?
 答えは「わからない」です。この例で大事なのは数字の部分ではありません。「やった」の内容です。
(p.137)

本ではこの後、具体的な勉強の内容が例示されている。ただ、私見としては「やった」内容も当然重要だが、その結果どう変わったか、つまり変化についても注目すべきだと思う。勉強することによって何ができるようになったか、どんな問題が解けるようになったのか、ということだ。もっとも、これは視点が少し違うだけで、内容的にはかなり共有しているのかもしれない。

量とか「やった」内容に関しては、1点ずつ上げていくという発想が面白い。

「本番までは長いけれど、今から1日1点ずつ上げていけば必ず受かる。1日1点でいいから、合格に近づいていけ。それを毎日確認しろ」
(p.142)

これはいい言葉だと思う。東大の最低合格点は350程度だから、1年前から毎日1点ずつ上げていけば、0点スタートでもたった1年で350点は超えられる。2年やれば700点を超えるから、満点の550点だって余裕で超えられるのだ(笑)。

冗談はさておき、受験生FAQでもう一つ超絶よく出てくるのが、どうすれば集中できるか、という質問だが。

人間の集中は、もって1時間弱と言われています。
(p.157)

では、集中できなくなったらどうすればいいか。伊沢さんの場合、ソリューションは簡単で、集中力が落ちてきたら切ってしまうそうだ。

そのぼーっとしている状態が抜けないような時、僕はいったん勉強をやめてしまいました。塾の授業中ならトイレに行ったり、自習室であったら散歩しに行ったり。
(p.157)

最低のコストで最大の結果を出す、という受験勉強の要求仕様を考えると、集中できないときは休憩、というのはかなり合理的な対応だと思う。その余裕が持てるかどうかが勝敗を分けるのかもしれない。

ところで、先ほどは1点ずつ上げていくという話だったが、数字ではなく内容に拘れ、というのが伊沢流のようだ。

すべての話に共通するのは、「数字だけでなく、内容を見ろ」ということ
(p.188)

これは当然のアタリマエの理論なのだが、ネットを見ているとそうでない人が猛烈に多いのがよく分かる。例えば何処の誰とは言わないが、Yahoo!知恵袋で数年前から、某大学の就職率が高いことを一所懸命自慢している人がいる。一般に、レベルの高い大学ほど就職率は低くなる傾向があるのだが、その人は就職率が高いことが自慢なのだ。どうにもわけが分からないが、何でも数字が大きいのがいいと思っているようにしか見えない。

さらに面白いのは、その大学のライバルなのか何なのかサッパリ分からないが、その人の数字を入れ替えて(つまりフェイクだ)、いや某大学の方が就職率が高い(から偉い?)、と反論する人が出てくるのだ。もうこうなってくると、子供同士で勝手に自爆し合ってくれということで周囲は失笑するしかないのだが、今時の大学生がこのレベルだということは認識しておくべきだと思う。

おそらく伊沢さんはその現実がよく分かっていない。

例えば勉強の計画を立てて、うまくいかない時はどうするか。

その時点の目標設定でうまくいかないのであれば、よりうまくいく方向にチェンジしていくことは良いことです。
(p.118)

勉強の計画を立て、ルールを決めたときに、ルールに固執すべきかという話である。微調整は悪くないという。守る気がないのはアレだが、固執もよくないという、伊沢さんのポリシーなのかもしれないが、臨機応変が求められている。書いていることは、至極もっともなことだ。

しかし、それができる受験生が一体どれ位いるのだろうか。

例えば現代文の勉強に関しては、問題を解いて次のように確認すればいい、というのだが…

自分の書いた解答を用意し、どこが間違っていたのか、どこが良かったのかを含めて分析していけば、「自分の悪い癖が見つかる」「自分が読めてなかった、見逃したところがわかる」ようになります。
(p.313)

ここも伊沢さんは大きな見落としをしている。そんなことができるのは、おそらく、現代文の力がある人だけだ。模範解答を見ても、なぜそれが正解なのか分からない、受験生はそのレベルの人の方が多いのである。

総括すると、この本は書いてあることはごもっとも、なのだが、果たしてそれを自分のモノにして勉強に活用できる人がどの程度いるのか、という点においては微妙に疑問を感じてしまう。かなり勉強ができる人でないとピンと来ないような気がするのだ。

しかし、ところどころに出てくる勉強以外の小ネタが面白くていい。最後に、伊沢さん自身が受験勉強は人生の役に立ったと言っている件について紹介する。

今振り返ると、受験勉強は、その後の僕の人生に役立ったと思います。学歴や勉学の話ではありません。自分を目標の前に立たせ、攻略法を考え、自己分析で弱点を直視し、一日一日進んでいく。その過程で、今後の人生での難題への向き合い方を、わずかばかりでも知ることができた、そんな気がします。
(p.354)

受験勉強で計画を立てたり、その計画を実践したときの狂いを調整していく、これはプロジェクトを進める上で役に立つノウハウである。もっといえば、あまり面白くないことをコツコツやる力とか、集中できないときに惰性でやってしまうとか、そんな能力も社会に出てから役に立つ。

そもそも、勉強することで一番向上するのは、勉強する力そのものなのだが、それも伊沢さんは気が付いていないような気がする。勉強するのが比較的当たり前の世界に長くいたからなのだろうか。


勉強大全 ひとりひとりにフィットする1からの勉強法
伊沢 拓司 著
KADOKAWA
ISBN: 978-4040653730