Phinlodaのいつか読んだ本

実際に読んでみた本の寸評・奇評(笑)

耳袋秘帖 妖談うつろ舟

今日は耳袋秘帖から、「妖談うつろ舟」。うつろ舟というのがまず謎です。

一部のマニアが主張するように、まさに他の星から来た未確認飛行物体
(p.10)

ソコまで行ってしまったら時代物ではなくSFですが。この巻のメインゲスト、というか今までも何度も出てきたので真打と言うべきかもしれませんが、主要人物は「さんじゅあん」です。モチーフは明らかにイエス・キリストです。ちょっと不審な行動があったので番屋に連れていって取り調べるのですが、

「あの男なんですが、あたしには到底悪人とは思えませんよ。なにかの間違いじゃないですか?」
(p.40)
「実は、あの男といろいろ話をするうち、人生とはなんぞや、みたいな話になりましてね」
(p.40)

会話する人がどんどん改宗していくのです。お奉行様の根岸にいわせれば、

なにもかもに絶望した男が、神仏を使った壮大な遊びをおこなっているのやも
(p.154)

それも一興かもしれませんが、宗教というのはそう甘いものではないような気もしますね。場合によっては、というよりむしろ、殆どの場合は、宗教というのはもっと真剣で命がけであるはずです。裏を返せば、命がけなので面白い、ということになるのでしょうか。

この話、最後にいつもの阿部播磨守がとんでもない案を出してさんじゅあんを引き取ろうとします。しかもそれは成功するのですが、さんじゅあんは馬に蹴られて(?)あっさりと死んでしまうのです。事故死です。これには阿部播磨守も驚いて、確かに口封じはしたかったのですがまだ何もしていないのだ、ということでどうみても事故死という普通の小説ではないような終わり方なんですよね。夢おちみたいなモヤモヤ感が。

と思いきや、

さんじゅあんが復活した。
(p.258)

(笑)

もうこうなったらSFも超えてアニメ【謎】ですね。もっとも、復活したさんじゅあん様は直接は出てきません。

「この世は大きなうつろ舟」
さんじゅあんはそうも言った。
虚しくて、取りとめがなくて、寂しい舟。つらく、切ないことばかり。
だからこそ、夢を見ようよ。幸せを夢見ようよ。
(p.264)

踊らせたんじゃないさ、君が勝手に踊ったんだよ、と言われているような気もしますが。人間の行動なんて、大抵は自分の意志じゃなくて何かに操られた結果なんだ、というのなら、それは何か納得できそうな気もしますね。

 

耳袋秘帖 妖談うつろ舟
風野 真知雄 著
文春文庫
ISBN: 978-4167900281