いやもう戦争は難しいというか書けば書くほど泥沼にハマっていくのでちょっとおいといて、今日はこっちに行きます。「耳袋秘帖、妖談うしろ猫」、時代小説というか、捕り物系です。
うしろ猫というのは、実際そういう猫が出てくるのですが、最後は意外と活躍するので驚きです。
この小説、サラっとコワイ話が結構出てくるのが面白いです。例えば、
町奉行というのは激職で、在任中に倒れて亡くなった例がいくつもある。
(p.67)
捕り物じゃなくて倒れて亡くなるんですか…まるでプログラマーのような。
途中に出てくる座頭の話は衝撃的です。目が見えないときは平気で歩いていたところが、目が見えるようになると怖くて歩けないというのです。
正面から来る人や両脇に並ぶ家が見えてしまうため、怖くて進めない
(p.208)
危険が分かっていると竦んでしまうわけです。若者は昔から無茶をするものと相場が決まっていますが、いろんな意味で見えないというのは案外重要なことなのかもしれません。
登場人物は、南町奉行の根岸肥前守鎮衛。見回り同心の椀田豪蔵、根岸の家臣である宮尾玄四郎。この三名がメインで、途中に先に紹介した座頭や、尺八のうまい少女、万引きをする若旦那など、よく分からん人達がわらわらと出てきます。吟味方の森沢なんて変態ぶりが酷いものです。
なかなかいい言葉もわんさか出てくるので、いくつか紹介してみます。
「おそらく、嘘とほんとが混じり合っているんだろうな。まあ、この世のたいがいのことがそんなものさ」
(p.49)
「本当に気が変になったものは、自分は変ではなく、まわりが変だと思う。自分を疑いはしない」
(p.87)
人は皆、真っ白い紙に自分の人生を描いていくべきなのだ。
(p.120)
教訓譚という感じの本ではないんですけどね、気楽に読める一冊です。
妖談うしろ猫
風野 真知雄 著
文春文庫
ISBN: 978-4167779016