Phinlodaのいつか読んだ本

実際に読んでみた本の寸評・奇評(笑)

阿修羅像のひみつ

阿修羅像といえばもちろん、興福寺中金堂にある有名な三面六臂の仏像です。私は最近、実物を見てきたのですが、顔立ちが光瀬龍原作、萩尾望都さんのマンガ「百億の昼と千億の夜」に出てくる阿修羅王に似ているので驚きました。ていうか、阿修羅王が阿修羅像をモデルにしたのだと思いますけど。

本書は「ひみつ」と名乗るだけあって、マニアックな情報が満載です。特に、X線CTスキャナによる画像がたくさん掲載されていて、実物を目視しただけでは分からないところまで解説してくれているのが、なかなか面白いです。例えば、

上半身背面の窓を通じて、像内の構造材(肩材と腰材)に大小さまざまな釘が大量に打ち付けられている。釘頭はすべて背面部にある
(p.81)

そして、釘が打たれているところが分かるX線画像が掲載されています。横顔が正面を向いているあたりは微妙に怖いです。

他にも阿修羅像以外の八部衆十大弟子の像の内部画像や、実際に作ってみたり、何の木が使われているかを deep learning を使った AI で判定するというような試みといった、いろんな視点からのアプローチが出てきます。実際に作ってみたら何なのかといいますと、

復元した左右の腕心木を胸の心木に打ち付けてみると、掌は体の正面でピタリと合掌する形になった。
(p.143)

このようなことが分かるそうです。ちなみに AI による素材判定は、

頭部、胴部、腕部の順に、カヤ、ヒノキ、アカマツ
(p.175)
デノイズ処理後に頭部はヒノキ、胴部はスギの可能性が示唆される
(p.175)

結局ツメのところでよく分からなかった感じですね。

最後に、今日のお言葉。

「厳重に梱包するほど、本体と梱包材の摩擦が増し、仏像を痛めてしまう。可能な限り、よけいなことはしない。」

(p.194)

搬送チームリーダーの海老名さんの言葉です。移動時に僅かな傷をつけることも許されないような最高レベルの国宝を移動するには、どうやって梱包するのがベストプラクティスなのか。「よけいなことはしない」というのが普通だと出てくることのない発想です。書中では「匠の知恵」と表現されていますが、含蓄深いお言葉です。


阿修羅像のひみつ 興福寺中金堂落慶記念
多川俊映、今津節生、楠井隆志、山崎隆之、矢野健一郎、杉山淳司、小滝ちひろ 著
興福寺 監修
朝日選書
ISBN: 978-4022630759