Phinlodaのいつか読んだ本

実際に読んでみた本の寸評・奇評(笑)

サイバーセキュリティ

今日紹介する「サイバーセキュリティ」は、比較的最近の事件、例えば2016年のマルウェア「Mirai」や、2017年5月のマルウェア「ワナクライ」が紹介されている。IoT機器を使った攻撃は最近特に注目されているが、一度組み込んでしまったら簡単に更新できない機器が狙われるとかなり困るという話はどこかで聞いたような記憶がある。

サイバー攻撃による米国経済の損失額が、

二〇一六年時点で五七〇億ドル(六・三兆円)~一〇九〇億ドル(一二・一兆円)
(p.56)

と推計されているという数字も出てくるが、結構幅があるような…

この種の最近の話題を、ざっくりとした現状を把握するのにはお手軽な本だと思う。

日本の取り組みも紹介されているが、この本は人材不足ということを強く指摘している。ネットをみていると「ホワイトハッカーになりたい」的な若者も案外いるのだが、どうすればなれますか、と言われても現実的にはちょっと困る。もっとも、ダークサイドに進みたいという人が出てこないだけマシかもしれないが。

セキュリティと少し話題的に離れるかもしれないが、インターネットの自由に関する問題点を指摘しているのが少し興味深い。2017年11月に公表された「ネットの自由2017」という報告書に指摘された5つの問題が紹介されている。

第一に、政府にとって好ましくない情報の拡散を防ぐため、途上国で広く普及しているモバイル通信網を遮断する事例が散見される
(p.144)

いわゆる情報操作だ。検閲のようなやり方だが、おそらく好ましい fake news を拡散させるようなこともやっていそうだ。

第二に、ネットによるライブ配信を政府が禁止している事例が増えてきています。
(p.145)

ライブだと情報操作ができないという意味もあるだろうか。

第三に、政府機関などによるサイバー攻撃によって、政府にとって都合の悪い情報の拡散を防ごうという動きがみられます。
(p.145)

これを政府が率先しているというというのだが、政府でなくてもこのような攻撃は問題だし、逆に反政府団体は政府に都合の良い情報の拡散を防ごうとするだろうから、これは仁義なき戦いである。

第四に、仮想通信網(VPN: Virtual Private Network)の利用について規制が強化されてきています。
(p.146)

VPN が使われると内容を盗聴できないので困る、ということだろう。ちなみに、この記事はVPN経由の状態で接続して書いている。

第五に、オンライン上で政府に対する批判や政府の不正を暴露するジャーナリストや活動家に対し、物理的な攻撃がおこなわれる事例が登場しており、事実、八か国でこうした殺害などの事例が確認できた
(p.146)

最終的には実力行使ということになる。ゴルゴ13の出番だ。

何でも自由ということはいいのだが、少し前にゆるキャラの組織票が問題になったように、自作自演や、botによる操作など、何でも野放しでもいいのかという問題もある。個人的にはそういうのが何でもありだからこそインターネットは面白いと思うわけだが、もはや情報が fake かどうかまるで分からない世界になったときに、検索結果の不正操作疑惑とか出てきたら、混沌もここに極まれりという感じで、全く先が見えない世界がただただ拡大しているような気がしてくる。

 

サイバーセキュリティ
谷脇 康彦 著
岩波新書
ISBN: 978-4004317425